◎編集者コラム◎ 『十津川警部 呉・広島ダブル殺人事件』西村京太郎

◎編集者コラム◎

『十津川警部 呉・広島ダブル殺人事件』西村京太郎


『十津川警部 呉・広島ダブル殺人事件』写真

 1978年発表の『寝台特急(ブルートレイン)殺人事件』で爆発的人気を得て以来、鉄道をテーマにしたトラベルミステリーの第一人者として長く走ってこられた西村京太郎先生。鉄道ミステリーといえば西村先生の代名詞ですが、実は戦争をテーマにした作品も多く手掛けられていることはご存じでしょうか。

 作家デビュー3作目の長編スパイ小説『D機関情報』(66年)、「二十三年目の夏」(68年)と早くから太平洋戦争にまつわる作品を書かれていますが、とくに戦後70年を迎えた2015年ごろから長編が目立つようになります。弊社の『一九四四年の大震災 東海道本線、生死の境』(19年/小学館文庫)は、太平洋戦争中に実際に起こった大地震を元に描いたもので、軍部の圧制下での悪行を主題にした作品です。

 本作『十津川警部 呉・広島ダブル殺人事件』もまた太平洋戦争を背景にして描かれた作品です。警視庁捜査一課の若手刑事・市橋大樹が、「青春時代を過ごした街の写真を見て楽しみたい」という入院中の祖父の願いを叶えるため、呉・広島へ旅に出るところから物語ははじまります。1925年生まれの祖父は、海軍の予科練習生を1944年に卒業後、翌年の終戦を呉の海軍基地で迎えます。

 作中「あの頃は戦争がいつまでも続くだろうと思っていた。だから戦争で死ぬと覚悟していた」と祖父に語らせたセリフは、やはり10代のころに、将校養成機関「東京陸軍幼年学校」で教育を受けられた西村先生だからこそのリアリティを持って迫ってきます。西村先生の戦争への思いは、推理小説研究家の山前譲さんに、引用も含めてご解説いただきましたのでぜひ併せてお読みいただけたらと思います。

 さて、本作では二つの殺人事件に関連して、戦後混乱期の人間関係の闇が浮かび上がってきます。普段おしゃべりだった祖父が孫にも秘密にしていたこととは……今の時代にいまだ影を落とす戦争。若き刑事とベテラン・十津川警部が追うスリリングな展開をお楽しみください。

──『十津川警部 呉・広島ダブル殺人事件』担当者より

十津川警部 呉・広島ダブル殺人事件
『十津川警部 呉・広島ダブル殺人事件』
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