今月のイチオシ本【ミステリー小説】

『放課後の嘘つきたち』
酒井田寛太郎

放課後の嘘つきたち

ハヤカワ文庫

 ライトノベルのフィールドから、青春ミステリの有力な書き手が颯爽と現れた。

 酒井田寛太郎『放課後の嘘つきたち』は、全校生徒五千人という規模のマンモス進学校を舞台にした連作集。この高校には、予算の割り振りや施設使用スケジュールの調整のみならず、部活同士の揉め事の仲裁やルールを守らない部への警告も行なう〈部活連絡会〉なる生徒会の下部組織が存在するが、いまは二年生の白瀬麻琴がひとりで運営していた。

 ボクシング部のエースで特待生の蔵元修は、同級生で十年来の幼馴染でもある麻琴からの誘いで、この〈部活連絡会〉の仕事を手伝うことに。すると、日本史の教師である浜田から思わぬ相談を持ち掛けられる。演劇部に所属している生徒たちにテストの不正疑惑があり、探りを入れて欲しいという。早速動き始めたふたりは、修と同じく特待生で演劇部の部長である御堂慎司が黒幕ではとにらむが、そこから意外な展開が……。

 こうして物語は、この一件を経て〈部活連絡会〉に加わる御堂を含めた三人が、持ち込まれるトラブルや不可解な謎に挑む形で進行していく。収録された四つのエピソードのなかで白眉は、高校生が対象の映画コンクールの審査を〈部活連絡会〉が代打で引き受けることになる第三話「ワンラウンド・カフェ」。御堂の知り合いが監督したドキュメンタリー作品の改ざんをめぐる推理と真相、そして謎解きに取り組むことで主要人物の苦い過去までもが明らかになっていく構成と繊細に描かれる関係性の変化が素晴らしい。

 ひとは一面的な捉え方では測れない存在であることを肯定し、タイトルの〝嘘つきたち〟の印象が読み始めと読み終えてからでは大きく変わってくる趣向も心憎い。これからの活躍が大いに期待できるこの才能、見逃してはなりませぬぞ。

 最後に、本作とあわせて、ぜひ著者の既刊『ジャナ研の憂鬱な事件簿』全五巻(小学館 ガガガ文庫)にも手を伸ばしていただきたい。苦味の効いた持ち味はもちろん、巻を重ねるごとに洗練され、ミステリとしての読みどころがぐんぐん増していく充実のシリーズになっている。

(文/宇田川拓也)
〈「STORY BOX」2021年1月号掲載〉

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