◎編集者コラム◎ 『荒野の古本屋』森岡督行
◎編集者コラム◎
『荒野の古本屋』森岡督行
東京・銀座の裏通りにひっそりとその書店はあります。築90年超の味わい深い表情をしたビルの1階、端正な店内で販売されるのは、ただ〈一冊の本〉。この不思議な、でも国内外に多くのファンを持つ「森岡書店」を運営するのが『荒野の古本屋』の著者・森岡督行(もりおかよしゆき)さんです。2015年に今の場所へお店を構えるまでに一体どんなヒストリーがあったのか――本書は銀座「森岡書店」誕生までを抒情的に描いた前日譚であり、一人の青年の奮闘記でもあります。
本書は、2014年に刊行され、話題を呼んだエッセイの文庫版。単行本刊行時の「その後」を加筆いただいたことで、現在の森岡さんについても知ることができます。また、酒井順子さんには素晴らしい解説文をいただきました。
物語は森岡青年の大学卒業後から始まります。戦前の匂いを残すアパートに住み、定職につかず読書と散歩三昧の日々。その後、縁あって飛び込んだ神田神保町の老舗古書店での修業を経て、茅場町に古書店を開業し……。この茅場町こそがタイトルにもある「荒野」なのです。都会のビジネス街で古書店を開業するに至ったのはなぜか。波瀾万丈の行く末はぜひ本書をお読みいただければと思います。
それにしてもしみじみ思うのは、読書と散歩に明け暮れていた日々が、今の森岡さんの礎(いしずえ)になっているということ。このような時間が〈一冊の本だけを売る〉という新しいコンセプトを生み出す根源になっていること。当時はもちろん不安もあったと思いますが、働きだして年を重ねるとなかなかこんな時間はとれません。わたしにはとても贅沢な人生の一コマに思えます。
書店に関わる方、これから書店を開きたい方、本好きの方にぜひ読んでいただきたい一冊です。そして、これから森岡青年のように新しいことを始めたい方にもぜひおすすめします。
──『荒野の古本屋』担当者より