人との出会いは宝だ!

『ひと』(小野寺史宜著)は、人の優しさにホッとする青春小説だ。
書店員名前
SHIBUYA TSUTAYA(東京)内山はるかさん

さざなみのよる』(木皿泉著)

 彼の国へと逝ってしまった小国ナスミ。享年43。家族を含め彼女と関わった人々の回顧録のような短編集。残された人々の心にいるナスミは様々な顔を持つ。それぞれの想い出が浮き彫りにするナスミという人間に、いつのまにか惹きつけられ、愛しさを感じてくる。

『さざなみのよる』(木皿泉著)
河出書房新社

 死は悲しいことだ。しかしナスミの死はさざなみのように穏やかに人々に浸透していく。ナスミを思うと、死の恐怖や悲しみが和らぐ気すらしてくる。こんな風に人々の心の中に残るならと羨ましく思うのだった。

ひと』(小野寺史宜著)

 柏木聖輔は大学生活半ばで母の急死により、唯一の家族を亡くし、一人きりに。金銭面の問題もあり大学を中退することとなる。生きていくには働かなければ。そう思いながらも動けずにいた聖輔にふとした出会いが訪れる。出会いを導いたのは50円のコロッケだった。聖輔は真面目で正直者。正直者がバカをみるような世の中なんて切ない。人柄が呼び込む出会いや幸運がある。聖輔、一人じゃないよ! 人の優しさにホッとする青春小説だ。

『ひと』(小野寺史宜著)
祥伝社

そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ著)

 小学生のころから数回、名字が変わった森宮優子、17歳。母親は2人、父親は3人いる。現在は継父と2人暮らし。まだ子供の優子には選択肢などないのだ。一見、異様な家族形態だが関係は良好。血の繋がらない親の間をリレーのバトンのように渡ってきた。しかし、全然不幸ではない。優子の心の柔らかさ、とんでもない現実にも折り合いをつける順応さに脱帽する。バトンを託された親たちは皆、精一杯の愛と力を優子に注ぐ。そう、彼女はいつも愛されていたのだ。家族の温かさが沁みる愛情いっぱいの優しい物語だ。

『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ著)
文藝春秋

 人と出会い、関係を築く。当たり前のようなことだけどなかなか難しい。

 歳を重ねてきて思う、出会いは運命だと。

 今の自分があることに、人との出会いが大きく影響していることは間違いない。

 私も、私と出会えてよかったと思われる人間になりたいものだ。

 そんな人との出会いや絆を考えさせられる3冊だ。

〈「きらら」2018年10月号掲載〉
【著者インタビュー】吉田篤弘『おやすみ、東京』
今月のイチオシ本 【ミステリー小説】