◎編集者コラム◎ 『希望という名のアナログ日記』角田光代
◎編集者コラム◎
『希望という名のアナログ日記 』角田光代
少女時代から作家としての半生までを振り返る感動的な回想から、愛してやまない忌野清志郎を語り、シャネルN°5と彼女の生涯を描く、そして、恋愛と結婚、美味しい旅の記憶までを鮮やかに描いた心に沁みる充実のエッセイ集。
全三章の構成は以下の通り。
第一章「〈希望〉を書く」――小学生時代の作文修行から作家デビュー、数度の挫折を経て直木賞受賞までを描く半生の記に始まり、「武道館で見たくらいに小さいけれど、でも見える」という愛に満ちた長文の忌野清志郎論など。全21篇(第一章は全体の半分を占める)。
第二章「旅の時間・走るよろこび」――〈旅のエッセイ〉と見せかけて実はフィクションという見事な短篇小説「それぞれのウィーン」で幕を開け、「永遠、という美」と題したシャネルN°5のドキュメントがつづく。そして台湾・韓国・バリ・スペインへの旅、さらには那覇マラソンと西表島マラソンの鮮やかな記録など全12篇。
第三章「まちの記憶・暮らしのカケラ」――この章はUR都市機構の雑誌に連載されたものを一挙収録。長年住んでいる町(荻窪)の素顔から東日本大震災で失われた町、そして日々の暮らしを生き生きと描いたエッセイまで。全17篇。
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2012年から2019年までに書かれたエッセイの中から厳選した充実の一冊。そのなかでも冒頭に収録した半自伝は女性誌に連載された15ページに及ぶ感動的な名篇である。
二十三歳でデビューしたときから、このベテラン編集者はずっと「あなたの書くものは厭世的すぎる」と言っていた。直木賞落選の少し前にも、「まだまだ厭世的すぎる。希望を書きなさい」と私に言っていた。「世の中に残っている小説は、みんな希望を書いている。残る小説を書きたかったら。希望を書きなさい」
ずっとわからなかったその言葉の意味が、落選したときに、ものすごく深いところで理解できた。大げさなようだけれど、感電したように、びりびりと震えるくらいショックを受けた。
(「希望を書く」より)
──『希望という名のアナログ日記』担当者より
『希望という名のアナログ日記』
角田光代