◎編集者コラム◎ 『私はあなたの記憶のなかに』角田光代

『私はあなたの記憶のなかに』画像

 1990年代末~2008年にかけてのこの時期(直木賞受賞は2005年)、角田さんはあらゆる媒体からの依頼にすべて応えるという旺盛な執筆活動を実践したのでした。自ら「千本ノック」と名づけて数多くの短篇小説を発表。本作はテーマ別アンソロジーや雑誌掲載など発表舞台はさまざまですが、著者単独の短篇集としてまとまるのは初めての円熟期の傑作ばかり。

 少女、大学生、青年、夫婦の目を通して、技巧を凝らした多彩な物語が始まります――単行本の刊行は2018年3月刊、待望の文庫化です。

《「さがさないで。私はあなたの記憶のなかに消えます。夜行列車の窓の向こうに。墓地の桜の木の彼方に、夏の海のきらめく波間に、レストランの格子窓の向こうに。おはよう、そしてさようなら。」――姿を消した妻をさがして僕は記憶をさかのぼる旅に出た。》(表題作)

《初子さんは扉のような人だった。小学生だった私に、扉の向こうの世界には、やってはいけないことなどひとつもないのだということを教えてくれた。》(「父とガムと彼女」)

《十八歳のときに知りあったK和田くんは消しゴムのような男の子だった。他人の弱さに共振して自分をすり減らす。元に戻るすべを知らないまま。》(「猫男」)

《イワナさんは私の母の恋人だった。でもふられたらしい。だから中学生の私はかわいそうなイワナさんと遊んであげることにした。》(「水曜日の恋人」)

《「メールって、宇宙を経由して誰かの元に届くんだ。それって、何かに似てると思わない? 何かって、たとえば祈りみたいなものにさ」――大学生・人妻・夫・元恋人。さまざまな男女の過去と現在が織りなす携帯メールの物語。》(「地上発、宇宙経由」)

 など、記憶をめぐる八つの物語。

 解説の野崎歓さん(フランス文学者)は、表題作についてこう語っています。《僕はこの作品がとても好きなのだが、今回読み返していっそう好きになった。「オープンエンディング」の名品である。》

 さて、日本文学では数少ない「オープンエンディング」とは何か? ぜひご一読ください。

──『私はあなたの記憶のなかに』担当者より

私はあなたの記憶のなかに

『私はあなたの記憶のなかに』
角田光代

〈第17回〉加藤実秋「警視庁レッドリスト」
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第110回