今月のイチオシ本【ノンフィクション】
半藤一利と出口治明という日本史と世界史の両雄が相まみえた贅沢な対談だ。
勝海舟をこよなく愛する半藤一利は、明治維新に対して明確な立場を取っている。私は『幕末史』(新潮文庫)を読んだときの驚きを忘れることはできない。出口もそうであった、とまえがきに記している。世界史の流れの中で日本史を理解するためには、明治維新についてもっと学ばなければならない、と出口は半藤に教えを乞うた。
慶応から明治に改元された時に「明治維新」という言葉はなかったと半藤は語る。こう呼ばれるようになったのは、明治十三~十四年頃のこと。新政府が自分たちを正当化するために中国の古典から見つけてきた言葉なのだそうだ。
幕末の動乱をもたらした黒船来航の世界史的な背景を出口が解説すると、そのことを知り、いち早く呼応した時の老中首座、阿部正弘の開明性を半藤が力説する。若く頭脳明晰な老中は開国しなければどうなってしまうのか、確実に理解したうえで日米和親条約を締結した。「開国・富国・強兵」路線を明確に打ち出した初めての幕府の為政者だったのだ。
しかし事はすんなりと通らず、天皇の関与やその側近の暗躍により尊皇攘夷運動が起こり、薩長がその動きに連動したことによって、革命とも内乱ともとれる幕末の混乱が起こる。
東軍贔屓であると宣言している半藤だが、いわゆる反薩長史観として語らない。歴史で一番大事なのは史実を踏まえた上で、事の経緯を明らかにしていくことだ。大政奉還から戊辰戦争までの各藩や人びとの動きは分かりにくいが、世界史からの視点やそれぞれの思惑を読み解くことが、理解を助けてくれる。
本書の中で多く語られるのは人材についてだ。阿部正弘、岩倉具視、勝海舟、坂本龍馬など幕末の偉人の功績だけでなく、失策をした人々の話が面白い。日本の舵取りのターニングポイントはここであったか、と目を拓かれる。
大河ドラマ『西郷どん』をより面白く観るためのガイドとしてもとても有益な一冊である。