ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第83回

ハクマン第83回親ガチャと出生地ガチャの
SSR2枚抜きを
しなければいけないのである。

これを書いているのは5月6日であり、人によってはGWが終焉、今日から出社という者もいるだろう。

「GW」を「ガッデムウィーク」と読むのは漫画家他、定休という概念がない職業の者にとって常識である。
懲役経験者が「2ヶ月」を「ニゲツ」と読むぐらい自然なことだ。
だが最近、識者の間で「ゴッサムウィークでは」という新説が提唱されている。

確かに、ブルース・ウェインこと定休定休の人間たちが、全身タイツマントマスクコスプレではしゃいでいる間、こちらはブルースが提示した「5月6日締め切り」というGW中働くこと前提の納期を守るため、映画に出てきたゴミ捨て場をかなりリアルに再現した部屋で仕事をしている、という意味ではかなりゴッサムだ。

だが逆に言えば、連休がないゆえに「連休が終わる」という恐怖とも無縁であり、これからブルースが疾患するであろう「もうバッドマンなんかやりたくねえよ」という5月病にもかかることはない。

ただし無縁なのは「5月」の方だけであり「病(ビョウ)」の方とは割と交流があり「年中病んでいるから5月病には縁がない」とも言える。

実際漫画家が数人集まるとメンタルクリニックの門をくぐったことがない方がマイノリティということも珍しくない。

しかしこれは類は友を呼んだだけであり、元気な漫画家、または未来の元気を何らかの方法で前借りして元気な漫画家もいる。
むしろ、大御所と言われる作家ほど心身共に健康で年より若く見える場合が多い。

だがそれは「元々心身共に屈強な人間でなければ大御所と呼ばれる年齢まで漫画家など続けられるわけがない」というだけであり、それ以外の人間は50代ぐらいで辞めるか死ぬかしているため「大御所作家はみんな元気」なのではなく「そういう奴だけ生き残った」結果そう見えているだけのような気がしてきた。

それでも「定時出社しなくて良い」そして会社ほど協調性を必要とせず、やろうと思えば一人でできる漫画家という職業はある種の人間にとって会社員より楽な仕事なのである。

だが、会社員の中にも、朝起きれないし協調性も皆無だが、漫画家になるほど冷静さを失っていなかったため、向いていないのを承知で会社員をやっている人も多いとは思う。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『うかれ堂騒動記 恋のかわら版』吉森大祐
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