週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.70 うなぎBOOKS 本間 悠さん

週末は書店へ行こう!

 8人の書店員が週替わりでその時々のおススメの本を三冊紹介する『週末は書店へ行こう!』。「他の書店員さんが紹介する本と被らない」「メインで紹介するのは新刊」という制約があったため、私が書きたかったものを既に他の書店員さんが紹介したり、その時々で何を紹介しようか悩んだりするかもと思ったが、不思議と被ることも悩むことも無く全9回の連載が終わろうとしている。

 自分も書くのだというプレッシャーを除けば、他の7人の担当回を読むのは単純に楽しかった。普段からやり取りをする人も、まだお会いしたことのない人も、その紹介文を読み、選んだ本が積みあがってゆくと、本同士のゆるやかな連帯から、その人らしさが浮かび上がる。一人の人間が選んでいるのだから好みが偏っていると言われればそれまでだが、それだけには留まらず、本は人となりを形作る大切なピースであるように思えてくる。

 私の紹介した本たちもそうだったらいいなと思いながら、最後の9冊目を紹介しよう。

『青木きららのちょっとした冒険』

『青木きららのちょっとした冒険』
藤野可織
講談社

 全8編からなる短編集には、8人の青木きららが登場する。

 青木きららは、ある時はモデル兼俳優の美女だったり、またある時は痴漢された女子高生だったり、あるいは「ハレの日」を撮影するカメラマンだったりする。

 痴漢が横行し、海外の富裕層向けに建てられた高層マンションがゴースト化し、義務化された身分証カードが必須アイテムなこの世界の舞台は、少し先の日本、だろうか。

 

 何とも可愛らしく、愛嬌のある装丁から想像もつかないほど、そこに描き出される世界はひんやりと湿っていて、時に濃厚な血なまぐささを伴っている。

「スカート・デンタータ」で描かれるのは、女性たちが纏うスカートの裾から歯が生えて、スカートに忍び込む腕を根こそぎ喰らってしまう世界だ。それが、ストレス解消の為に痴漢を日課としていた男の一人称で語られる。同乗した電車内で〝仲間〟の身に振りかかった(たまたま彼は、その日は痴漢を働いていなかった)とんでもない災厄にうろたえる男。女たちはこぞってスカートを穿くようになり、スカートの歯を磨くための歯ブラシまでもが流行する。男たちの中には〝自衛〟の為に武器を携帯するものが現れ始め……。

「社会問題」「フェミニズム」「ディストピア」それらの言葉をあてはめてこの本を語るのはたやすいが、そうしてしまうのにも違和感がぬぐえない。この読み味を何と呼べばいいのかふさわしい言葉が見つからないが、だから私は本を読むのが大好きなんだと声を大にして叫びたくなるような、そんなたくらみに満ちた短編たちには、ページを捲らせ続ける強烈な吸引力があった。

 

 どこか滑稽で、それでいて道徳的で、物語としての面白さを損なわず、子どもたちの想像力を豊かに育むのが童話なのだとしたら、『青木きららのちょっとした冒険』はまさに大人に与えられた童話なのだと思う。

 さらさらでつやつや、ころんとしたフォルムと鮮やかなビタミンカラーが覆い隠すのは、歯に、上あごにまとわりつく、にっちゃりとしたウェットさ。マカロンをはじめて食べた時の不思議な感覚を想起させる8編から、あなたはどんな想像を膨らませるだろうか。

 

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