◎編集者コラム◎ 『私たちは25歳で死んでしまう』砂川雨路

◎編集者コラム◎

私たちは25歳で死んでしまう砂川雨路


私たちは25歳で死んでしまう』の編集者コラムをご覧いただき、ありがとうございます。本作の編集作業を担当しました、A田と申します。

 本コラムを執筆している2022年の8月末現在、東京は急に気温がぐんと下がりましたが、振り返ると、この夏の暑さは異常だったのではないでしょうか。
 東京都心の年間の猛暑日(最高気温35度以上)日数はこれまでの記録を塗り替え、歴代最多を更新。異常気象を分析する気象庁の検討会では、この夏の猛暑が「異常な状態だった」との見解が示されるなど、まさに異常事態。そして奇しくも(?)、そんな夏の直後に刊行される本作も「異常」な世界が描かれた作品となりました。

 物語の舞台は未知の細菌がもたらした毒素が猛威をふるい続け、数百年が経過した未来。毒素に打ち勝てない人類はその多くが亡くなり、人口は激減。人類の平均寿命は25歳にまで低下しました。

 そんな人口減を少しでも食い止め都市機能を維持するため、就労と結婚の自由は政府により大きく制限されるようになり、結果、国民は政府が決めた相手と結婚し、一人でも多く子供を作ることを求められるようになってしまいます。本作はそんな異常な管理社会を描いた作品です。

 元々は著者の砂川先生がおっしゃった「ディストピアな世界観を持つ作品が書きたい」という一言からスタートした企画で、平均寿命が25歳になった世界というのも、砂川先生が当初からイメージされていたものでした。そして砂川先生が本作で描いたのは、この異常世界の体制を打破するようなヒーローでもヒロインでもなく、普通の人々。社会やシステムに翻弄されつつも懸命に生きる女性たちの訴えです。

 例えば、収録されている短編の一つ「別れても嫌な人」では、結婚が強制される社会で離婚せざるをえなかった夫婦のその後が描かれ、妻は社会のサポートからこぼれ貧困に悩みます。また「カナンの初恋」という作品では、子供を産むことが全ての世の中で、あえて〝子供を作らない〟選択をした夫婦の葛藤が描かれます。

 その他にも老いやパートナーとの死別が描かれ、異常が日常となった世界を生きる女性たちの「生の声」が紡がれていきます。中でも作中に登場する、こんな一節が私の胸を打ちました。

『ナオミの心にあるのはいわば憤りだった。儘ならない世界に対するどうにもならない感情だ。この世界はおかしい。ナオミはもう、不条理を平気な顔で受け入れられなくなってしまった。』

 異常気象が騒がれたこの夏。しかし、異常なのは天気だけなのか――。「この世界はおかしい」。もしもそんな疑問を今皆さんが持っているのなら、本作にもきっと共感できる何かがあると思います。気になったかたはぜひ、書店様の店頭でお手にとってみてください。最後までご覧いただき、ありがとうございました。

──『私たちは25歳で死んでしまう』担当者より

私たちは25歳で死んでしまう

『私たちは25歳で死んでしまう』
砂川雨路

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