# BOOK LOVER*第19回* 真鍋大度

# BOOK LOVER*第19回* 真鍋大度

 数学的な技法で作られたグラフィックは、デザインとしての価値をも有している。『Design By Numbers』は、そのことをあらゆるパターンを提示しながら証明した一冊だ。プリミティブなデザインパターンの数々は、刊行から20年以上が過ぎた今見ても僕の目には変わらず新鮮に映る。数学を使ってデザインをするなんて、僕が数学科の学生だった当時は考えもしなかった。

 著者のジョン・マエダは数学とデザインの領域を結びつけた第一人者だ。かつて、まったく無関係に切り分けられていた数学とデザインという領域は、コンピュータの進化によって密接に結びつけられた。その元祖として道を切り開いたのがジョン・マエダだ。

 近年、NFTやジェネラティブアートの普及が一気に進んだが、それらの基本的なコンセプトは、ほぼすべてこの一冊に詰め込まれている。

 今、世間では Chat GPT に代表される生成系AIが爆発的なブームを巻き起こしている。AIがさらに進化すれば、いずれは小説というオールドなメディアの形も何かしら変わっていくかもしれない。大量のデータを解析してアウトプットするAIの手法は便利だが、そこに人間ならではの意表を突くズレやアイデアが融合すれば、新しい表現が生まれる可能性もあるはずだ。

 AIは便利な道具だ。でもあなたが表現者で、新しい道具で新しい表現を試みようとしているのであれば、自分が今いる〝土俵〟を誰がどう切り開いてくれたのかは知っておいたほうがいい。本書はそのルーツに触れられる、数十年に一冊しか生まれないレベルの稀有な実践書だ。

 


Design By Numbers

『Design By Numbers』
ジョン・マエダ
大野一生 訳(ソフトバンククリエイティブ)

数学とデザインを結びつけたデジタル・メディアの技法について多種多様なパターンを提示しつつ解説した2001年刊行の名著。

真鍋大度(まなべ・だいと)
1976年生まれ。アーティスト、プログラマー、DJ。デジタルとアナログ、リアルとバーチャルの境界線に着目し多方面で活動中。

〈「STORY BOX」2023年7月号掲載〉

◎編集者コラム◎ 『緑の花と赤い芝生』伊藤朱里
◎編集者コラム◎ 『道をたずねる』平岡陽明