「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第2回

「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第2回
唯一無二の世界観で今大注目のお笑いコンビ〝男性ブランコ〟。そのネタを作る平井まさあきさんの脳内は一体……? たっぷりの妄想をふりかけた、おいしいおいしい平井さんの日常をお楽しみください!

2.「凱」

 先日、僕の故郷であります兵庫県北部、豊岡市にて、我々男性ブランコの凱旋ライブがありました。凱旋だと言って憚らないのは、主催の方にそういうタイトルをつけてもらったからです。なので、ここは声を大にして、いや文字を太くして凱旋ライブと表記させていただきます。

 関係ないですが凱ってカッコいいですね。山の下に豆が埋まってて、その横に、なんか、にょってしている幽霊みたいなのがいて、その幽霊は「私、ここにいますけど何か御用か?」ってな具合にツンっとしてますね。うむむ、こう書くとカッコ悪い……。山の下に豆の時点でカッコ良さの要素が抜け落ちてしまったようです。これはきっと構成している漢字が合わさった時のしっくり感、ガイと読ませるその響き、それらがマリアージュして、カッコいいが誕生したのでしょう。不思議、漢字。

 話が逸れてしまいました。凱旋ライブの話です。どうしてこんなにしつこいぐらいに凱旋ライブの話を継続したいかといいますと、このライブは、有志で集まった同級生が企画してくれた記念すべきライブだからです。なんてったって、それはもう超弩級の同級生です。超弩級に同学年なのです。超弩級に同じ釜の飯喰らいなのです。弩同級生です。弩級生です。まずい帰ってこれなくなりそう。戻します。

 同級生たちはライブを一から作ることは初めてだったそうです。会場を押さえ、チケットを販売し、広告宣伝のためのポスターを作り掲示する、音響、照明などの技術面を整え、ライブ内容・構成を考える、スポンサーを募る、そして僕らにオファーをしてくれて、交通関係まで考える。他にもたくさんの雑多なするべき事が次々に現れたことでしょう。ライブは開催するに至るまでに計り知れない大変な労力と時間が必要なのです。曲がりなりにも僕はライブを作る人間です。制作・技術的なことになかなか関わることはありませんが、少しでも知りたい思いがあるので、横ちょから、チラリのぞいたりします。すると、その神経の使う細やかな作業の数々には、お口あんぐり目ん玉どんぐりこめかみぐりぐりです。

 今回のライブは同級生贔屓でも何でもなく、とても素敵な美しいライブでした。準備から進行まで、とてもスムーズでなんのトラブルもなく、そして用意してくれた企画にはたくさんの遊び心と愛が詰まっていました。ライブの随所に、ほかりほかりとした温もりを感じました。

 そんな貴重な体験をさせてくれた同級生の皆、ありがとう。そして何より、会場に足を運んでくださった方々、ありがとうございました。風のヒュルリな噂で聞きましたが、チケットを買えなかった方もいらっしゃったみたいです。すみません。またライブしますので、その時にぜひお越しいただけたら嬉しいです。

 ここで少しばかり、異なるジャンルの嬉しかった話をさせてください。このライブの日、僕はグッチというあだ名の同級生と会いました。グッチとは小学6年生以来、24年ぶりに会いました。そんな長い歳月を経てもグッチはグッチでした。あの頃とは違いワイルドな口ひげを蓄えていましたが一瞬でグッチだとわかりました。

 小学5、6年生の2年間、このグッチと毎日のように遊んでいました。バス釣りをしたり、バッタやカエルを追いかけたり、エアガンでサバイバルゲームをしたり、ただただ土手を転がるだけというのをやったり、毎日が天下御免の極楽浄土でした。こうやって瞼を閉じるだけで昨日のことのように、なんて鮮明な、今現在のことのように思い出されるのです。そう思い返すと、グッチが何より好んだ遊びがありました。飛行機の模型やラジコン遊びです。グッチのお父さんが倉庫に保管していた大きな飛行機のラジコンを内緒で見せてもらった記憶があります。その自分の体よりも大きなラジコンを見た僕は多種多様な感嘆詞を連発していたと思います。感嘆詞機関銃を構え、感嘆詞のセーラー服を着た僕はグッチの身体を感嘆詞弾丸で蜂の巣にし、「快感……!」と薬師丸ひろ子、いや、感嘆詞丸ひろこの如く言い放った記憶があります(大丈夫です、『セーラー服と機関銃』は僕も世代ではありません、雰囲気でやっちゃってます)。

 とにもかくにも、すごく大きな飛行機ラジコンに、わああっとテンション急上昇だったのです。そんな僕を見たグッチはどこかへへへっと照れながらも誇らしそうにしていました。

 大人グッチに突然遭遇し、そんな思い出が頭の中を駆け巡りました。それから僕らはたくさん話をしました。立ち話もなんだったけど、なんだなっと思いながらも夢中になって立ち話をしていました。その話の中でわかったのが、現在のグッチはなんと、飛行機のパイロットを養成する会社の取締役をやっているそうです。僕は素直に驚きました。おお! 飛行機に携わる仕事をやってるんだ、と。それから多種多様な感嘆詞を連発していたと思います。それはもう、感嘆詞丸ひろこリターンズってなもんで。すみません、やめます。

 もちろん、今日に至るまでに色んな紆余曲折はあったそうです。誰しも色んなことを経て経て、今があるわけで。その色んなことがなければ今がなかったわけで。
 

「ずっと好きやったもんな、飛行機」
「そうやな、まあ、なんとかやってるよ」

 
 そう返したグッチは、いつか見たことがあるへへへっとした顔をしていました。

 そんなへへへっとした顔をされると、僕までへへへっとした顔になりました。
 

「へへへっ」
「へへへっ」

 
 互いが顔を見合わせながら
 

「へへへっ」
「へへへっ」

 
 そして、だんだんと、へへへっというのが、どちらのへへへっなのかわからなくなりました。
 

「へへへっ」
「へへへっ」

 
 そして、お互いのへへへっが混ざり合います。混ざり合って、重なり合って、溶け合って、どうしてしまったのか、へへへっが変容していきました。
 

「へへへっ、へへへっ……べべべっ」

 
 べべべっになりました。
 

 いやはや、べべべっになるとは思いもよりませんでした。

 僕らはべべべっを生み出してしまったことに後悔の念が押し寄せてきました。しかし、その後悔の念を見て見ぬフリを決め込んでしまったのです。それがいけなかった。べべべっならまだよかったのです。べべべっならまだ引き返せました。そうです、丁度僕が上記で感嘆詞丸ひろこリターンズで引き返したかのように、軽やかに引き返せたのです。僕らはそのままべべべっのその先に行ってしまったのです。
 

「べべべっ、べべべっ……」

 

「べべべっっ」

 

「びょびょびょ!」

 
 そうなのです、びょびょびょまで行ってしまいました。

 終わりです。もう、終わりなのです。

 まさか、ほのぼの思い出話から一転、超絶バッドエンドになるとは僕自身も知りませんでした。

 まさかまさか、びょびょびょにまで至ってしまうとは……。

 
 びょびょびょにまで至ってしまった僕らは、外に出ました。

 
 僕はグッチに
 

「びょびょびょ」

 と言いました。するとグッチは僕に
 

「びょびょびょ」

 と言い返してきました。

 
 にっちもさっちもいかないとはこのことだと思ったので、僕らは空を見上げました。

 その青い空には、一直線の飛行機雲が伸びていました。
 

 僕らは顔を見合わせ、へへへっと笑いました。


平井まさあきさん

平井まさあき[男性ブランコ]
1987年生まれ。兵庫県豊岡市出身。芸人。吉本興業所属。大阪NSC33期。2011年に浦井のりひろと「男性ブランコ」結成。2013年、第14回新人お笑い尼崎大賞受賞。2021年、キングオブコント準優勝。M-1グランプリ2022ファイナリスト。第8回上方漫才協会大賞特別賞受賞。趣味は水族館巡り、動物園巡り、博物館巡り。


「妄想ふりかけお話ごはん」連載一覧

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ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第117回