週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.102 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん

 店長の前で大号泣してしまった。

 きっかけは『不便なコンビニ』という1冊の本だった。

不便なコンビニ

『不便なコンビニ』
キム・ホヨン 訳/米津篤八
小学館

 朝から読み始めて止まらず、通勤中も読み続け、お昼休みに最終章に突入したその時。胸に熱い気持ちが込み上げ、炎のように燃え広がり、次から次へと涙があふれた。

 そんな感極まっていたその時……! アクシデントが発生する。なんとすぐ隣に店長が座り、ランチを始めたのだ。

 これは非常にまずい……! 滝のような冷や汗が出てくる。涙を見られることが恥ずかしく、うずくまり泣きながら最後まで読み続けた。

 その後、「ぜひ、多くの方に読んでいただきたい!」という気持ちが、嵐のように巻き起こる。

 同時に、心の中でもう一人の自分が叫びだす。

「どの場所で展開する?」「パネルやポップはどうする?」etc.……

 頭の中が、多くの問いで埋め尽くされ大パニック! 脳内革命!? が起き始めた!

 そして最重要事項の「ポップの〝言葉〟はどうする?」が、何度もエコーする。

 自宅に帰り、ない脳みそをフル回転して、キャッチコピーを考える。お客様に一瞬でも見て頂ける言葉を探して、ノートに書きまくった。

 そんな熱い興奮が止まらない本作を、オススメ3ポイントにてご紹介させていただきたい!


オススメポイント① 大ロングセラーの海外文学
 読後、我を忘れて調べたところ、本書は100万部超えの韓国文学であり、2022年の韓国内の公共図書館で最も貸し出された本だった。心潤うKヒーリング小説として社会現象を巻き起こし、韓国では2巻目が発売、ドラマ化も決定しているとのこと。この理由に大納得! その輝きに感動の極地! 打ちのめされた!

オススメポイント② 言葉の表現が美しい
 コンビニ Always を舞台に交流する人々の内面の変化や様子が、繊細に丁寧に描かれていて、胸にみずみずしい気持ちがあふれていく。心が浄化するような表現にあっという間に魅了された。そして、韓国の日常や風景を肌で感じるような描写に、目の前に映像が広がった。

オススメポイント③ 物語に落とされた秘密
 心にほがらかな気持ちがあふれる本作。しかし、その気持ちが激変する、ある大きな秘密が隠されている。その真相に辿り着いた時、目が壊れたように、ぼろぼろと涙がこぼれた。最後のページを読み終えた後、気づいたら最初のページを開いていた。二度読みしたいほど心揺さぶられた。


 生きていると辛い事や、どうにもならない事が必ず起こる。時に、大切な人に裏切られ、見放されることもあるかもしれない。また、自分も誰かを傷つけてしまうことがあると思う。人間は完璧ではない。

 ただ、それでも人を信じ、相手を思いやる心を持ち続けていれば、信頼という希望の道はきっと開かれる。

 物語を通して「自分があきらめなければ、何度でもやり直せる。」という、優しく力強いパワーをいただいた。

 読み終えた今も、心の闇が溶け、光に変わる光景が胸にずっと残っている。

 心身共に癒されたい方に、ぜひオススメしたい1冊だ!

 

あわせて読みたい本

アーモンド

『アーモンド
ソン・ウォンピョン 訳/矢島暁子
祥伝社

 喜怒哀楽の感情がわからない、16歳の高校生、ユンジェ。そんな中、ある一人の少年との出逢いで、彼の運命が変わっていく。ユンジェの心が少しずつ変化していく様子が繊細で美しい。そして、ラストでの驚きの奇跡に涙が止まらなかった。これからも何度も読み返したい大好きな作品。

 

おすすめの小学館文庫

いちからはじめる

『いちからはじめる』
松浦弥太郎
小学館文庫

 どんなに失敗しても、傷ついても、この言葉を胸に持っておけば怖くない。松浦さんの考える「いちからはじめる」は魔法の言葉。すぐそばに寄り添い、そっと支えてくれるような、丁寧で温かな言葉に、心に穏やかな元気があふれてくる。あきらめず、自分ができるまで行えば道は続く。人生の道しるべのような1冊。

◎編集者コラム◎ 『がいなもん 松浦武四郎一代』河治和香
こざわたまこ『教室のゴルディロックスゾーン』スピンオフ小説「メロンソーダと烏龍茶」