こざわたまこ『教室のゴルディロックスゾーン』スピンオフ小説「メロンソーダと烏龍茶」

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 こざわたまこさんの新刊『教室のゴルディロックスゾーン』発売を記念して、小説丸だけで読めるスピンオフ小説を掲載!
 なんと全部で6つの物語が楽しめます! お話はそれぞれで完結しているので、『教室のゴルディロックスゾーン』を未読の方でも安心してご覧いただけますが、本編読後の方がより楽しめるかと思います。
 3つめは、あるお姉さんのお話です。


メロンソーダと烏龍ウーロンちゃ(ある日の小野おの舞香まいか

  

 私はうーちゃんが好きだ。うーちゃんの、りりしい眉の形が好き。少し癖のある髪の毛が好き。私の名前を呼ぶ時の、ほんのりかすれた声が好き。裸足でサンダルを履く時にうーちゃんがひそかに気にしてる、指先の丸まった爪の形が好き。二人で清潔なシーツにくるまりながらする、赤ちゃんみたいなキスが好き。私の頬や体に触れる、うーちゃんのふにゃりとした唇の感触が好き。

 明け方目を覚ますと、隣にうーちゃんがいる。ただそれだけのことが、どうしてこんなに嬉しいんだろう。私は、うーちゃんが好き。うーちゃんもきっと私が好き。うーちゃんが私を好きだと言う時、私がうーちゃんに好きだと言う時、私は私自身のことをとてもいいものだと思える。

 うーちゃんと出会うまで、私は私のことが嫌いだった。おまえはだめだ、何をやってもだめだ。役立たず。死んだ方がいい。今すぐ消えた方がいい。死ね、死ね、死ね、死ね、死ね。頭の中で、いつもそんな声がしていた。でも、今思えばそれは、私の言葉じゃなかった。私が望んだ、私自身の言葉ではなかった。私をおとしめるために私以外の誰かが用意した、取るに足らない言葉たちだった。うーちゃんは、私にそのことを思い出させてくれた。

 ***

 私がうーちゃんと出会ったのは、今から二年前の夏。そもそものきっかけは、その頃よく出入りしていたオンラインゲームのオフ会だった。

 当時、新卒で入った会社を辞めて引きこもり同然の生活を送っていた私は、暇さえあればそのゲームに入り浸っていた。画面越しに広がる荒涼としたスチームパンクの世界で、正体不明の敵をばったばったとなぎ倒し、チャットを介して仲間達とオタク談義に花を咲かせている間は、ほんの少しだけ現実を忘れることができた。

 その飲み会は、チェーン店の居酒屋の大きな座敷を貸し切って行われた。ほとんどのメンツが初対面ということもあり、最初はぎこちなかったものの、全員の自己紹介が終わる頃にはお互いのハンドルネームと顔も一致して、空気は大分ほどけたものになっていた。

 会が始まり、一時間ほど経った頃のことだ。

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【好評発売中!】

 

『教室のゴルディロックスゾーン』
こざわたまこ


こざわたまこ
1986年福島県生まれ。専修大学文学部卒。2012年「僕の災い」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。同作を収録した『負け逃げ』でデビュー。その他の著書に『仕事は2番』『君には、言えない』(文庫化にあたり『君に言えなかったこと』から改題)がある。

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