週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.108 丸善丸の内本店 高頭佐和子さん
『特攻服少女と1825日』
比嘉健二
小学館
1989年春、『ティーンズロード』という雑誌が創刊された。特攻服を着た鋭い視線のヤンキー女子たちが、表紙を飾る雑誌である。初代編集長であった著者は、当時なかなか企画が成功せず追い詰められていた。男性向けのヤンキー雑誌が他社で成功していることに便乗し、レディースチームがテーマの新雑誌に、編集者として賭けたのだ。
雑誌を通して有名になったレディースたちの生き様が衝撃的だ。13歳でチームに入った少女は、自分たち以外の女子が地元でヤンキーっぽい服装をしていたらボコボコにする「駅番」を精力的にこなし、15歳で総長の座に就いて『ティーンズロード』の顔となった。だが、少年院送りになって破門され、かつての仲間からリンチを受けるという強烈な痛みを味わう。地元の不良仲間3人で暴走族を立ち上げた女性は、仲間の事故死という悲劇を経験し、派手な抗争や補導を乗り越え、勢力を拡大していく。ヤクザとも渡り合い、相談役として100人規模のメンバーをまとめるようになる。
雑誌の誌面を飾り、たくさんの少女をカリスマ性や実績で束ねてきた彼女たちには、良くも悪くも妥協がない。その驚異的な実行力には恐れ入るが、居場所を守るために必死で戦った結果なのだろう。著者は、彼女たちと正面から付き合い、誌面を通して居場所のない少女たちの抱えるシンナーや孤独などの問題にも向き合ってきた。時には厄介な目にあっても、仕事に対するプライドと本気は、彼女たちに負けていない。不良少女という記号でまとめず、ひとりひとりの個性を引き出そうとしたからこそ、全国のヤンキーが憧れ、掲載されたいと願う誌面が作れたのだろう。
この雑誌が創刊された頃、私は都内の高校に在籍していた。ヤンキーは一人もいない学校に通う、地味な生徒だった。規律の厳しそうな怖い集団に入って、特攻服を着てバイクで暴走なんて……。意味不明だし、怖いし、迷惑だし、ダサい。近寄りたくないという以前に、完全に別世界の出来事だった。とはいえ、興味が全くなかったわけではない。学校があまり好きではなく、早退して一人で映画を見たり、本屋で長時間立ち読みをして過ごす時間が一番楽しかった。そんな時には、手にしているところを友達には絶対見られたくないようなおじさんの読む雑誌や、自分とは全く属性が違うヤンキーたちが読む雑誌をコソコソと立ち読みした。その中に『ティーンズロード』もあったと思う。憧れたということはなく、ただの好奇心だ。だけど、クラスで人気のおしゃれなファッション誌には出てこない泥臭さと本音には、モヤモヤした気分を晴らすパワーがあった。今思えば私なりに、学校や家とは別の居場所を求めていたのかもしれない。
特攻服姿でカメラに鋭い視線を向けていた少女たちも、今はもう大人である。レディース総長という経験を通して、人並外れた度胸と統率力と闘争心を手にした彼女たちは、いったいどんな人生を送っているのか。気になった方は、ぜひこのノンフィクションを読んで、確かめていただきたいと思う。
あわせて読みたい本
『明治・大正・昭和 不良少女伝 莫連女と少女ギャング団』
平山亜佐子
ちくま文庫
丸ビル一の美人タイピストにして、不良グループ「ハート団」の首領・ジャンダークのおきみ。今から約100年前に実在したこの女性を知ったことをきっかけに、著者は明治から昭和にかけて活躍(?)した不良少女たちについて、新聞記事を中心に資料を集め始めます。平成や令和とそう変わらない理由で、社会からはみ出た少女たち。度胸や思い切りの良さは、レディースたちにも受け継がれている気がします。その不良行為の背景を知ることによって、時代の変化を感じることができる貴重な1冊です。
おすすめの小学館文庫
『こんぱるいろ、彼方』
椰月美智子
小学館文庫
主人公は、スーパーで働くちょっと気が弱いけれど善良な女性・真依子。大学生の娘がベトナム旅行に行きたいと言ったことをきっかけに、幼い頃ボートピープルとして日本に来た過去を初めて打ち明け、祖国で起きた戦争や自分のルーツに向き合う決心をします。歴史や世界情勢を知ることは、他者の痛みから目を逸らさない強さと想像力を身につけることでもあるのかもしれません。今、もう一度読み直したいと思う小説です。