週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.126 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん

「雑誌校正者、単行本校正者、ブックデザイナーが泣いた。」
「全関係者号泣の青春純愛ストーリー。」

 そんなリリース案内に、一瞬で目を奪われた。
盤上に君はもういな
 初めて出逢った綾崎先生の作品は、将棋がテーマだった。お恥ずかしながら、将棋についての知識がなく、読む前から「私には読めないかもしれない…」とネガティブが発動していた。

 しかし、読み始めてビックリ! その不安は一瞬で吹き飛んだ。冒頭1文目から引き込まれ、気づいたら必死にページをめくっていた。将棋が分からなくても、とにかく面白い! 2人の天才女性棋士に魅了され、その人生を必死に追い続け、ラストは大号泣していた。

 その後、綾崎先生の大ファンになり、いつも新刊を楽しみにしている。

この銀盤を君と跳ぶ

『この銀盤を君と跳ぶ』
綾崎 隼
KADOKAWA

 そんな綾崎先生の最新刊、フィギュアスケートがテーマの『この銀盤を君と跳ぶ』を、オススメ3ポイントにてご紹介させていただきたい!


オススメポイント① フィギュアスケートが分からなくても大丈夫!
 実は、私も全くフィギュアに詳しくありません。テーマを見て、読む前からドキドキしていたのだが、不安は完璧に打ち砕かれた。もう、すごいとしか言いようがない! 圧倒的な臨場感とリアリティ。心をつかむスピーディな展開に、どんどん引き込まれてしまう!

オススメポイント② 2人の天才女子スケーターと、2人の伴走者に注目!
 表現力とセンスが豊か、強靭な精神力を持つ完全無欠の革命児、京本瑠璃。シニア男子のような、圧巻の4回転ジャンプを跳ぶ天性のカリスマ、雛森ひばり。性格が真逆な2人の行く末に目が離せない。そして、彼女達を支える2人のパートナーの、ゆるぎない想いと信念に心を打たれた。

オススメポイント③ オリンピックをかけた白熱戦に熱狂!
 1つのオリンピック出場枠をかけた、天才2人の決戦。まるで、目の前に美しい銀盤が広がり、肌を刺すような緊迫感が止まらない。そして、リンクも溶けるような、情熱の炎で包まれた2人の迫真の演技が、目前に繰り広げられるようだった。鳥肌が立ちながら、目に焼き付けるようにページをめくった。


 本書を読み終えた後、数日間しばらく放心状態。言葉にできない熱い想いが、胸の中を渦巻いていた。こんなにもすごい作品が誕生するなんて…! 興奮と歓喜の気持ちでいっぱいで、まさにランナーズハイのような状態だ。

 この物語について、まだまだオススメポイントがありすぎて、無限に語り続けたいのだが、勢いあまってネタバレしてはいけないので、ここでストップさせていただく。

 ただ、やはり私が一番心を動かされたのは、2人の選手と2人のパートナーの、真剣かつ本気な心の交流だ。上辺だけでない、魂と魂がぶつかり合うような、抱きしめ合うような、全身全霊の心の機微に、とめどない涙が流れた。そして、どんなに苦難が降りかかっても、絶対にあきらめない。それぞれが前へ進む姿に、とてつもない勇気をいただいた。

 生きる力が、熱い血潮となり心身共に流れる、ノンフィクションのような人間ドラマ。ぜひ、このほとばしる熱情を、物語を通して体感していただきたい!

 

あわせて読みたい本

盤上に君はもういない

『盤上に君はもういない
綾崎 隼
KADOKAWA

 史上初の女性プロ棋士をかけた、2人の女性の白熱の一戦。しかしその後、勝者は姿を消してしまう。なぜ、彼女は将棋界から去ってしまったのか。空白の2年間の真実に辿り着いた時、胸が燃えるような、熱い涙が止まらなかった。そして、ラストで見た、最高の結末に涙腺崩壊必至。将棋に命をかけた、2人の女性の軌跡の物語。魂が震えるような情熱あふれる作品。

 

おすすめの小学館文庫

ヒノマルソウル

『ヒノマルソウル 舞台裏の英雄たち
著/涌井 学 脚本/杉原憲明、鈴木謙一
小学館文庫

 リレハンメルオリンピックに出場したものの金メダルを獲得できず、4年後の長野での雪辱に燃えるスキージャンパーの西方仁也。しかし代表に選ばれず、テストジャンパーとしての参加となってしまう。代表選手への羨望、自身への葛藤に向き合い、進んでいく姿に心を打たれる。長野オリンピックでの金メダル獲得を支えた、25人のテストジャンパーの奇跡の実話。雪が溶けるような、熱い信念が込められた物語。

宗岡敦子(むなおか・あつこ)
読書と水泳が大好きです! 気になる作品は、ジャンル問わず何でも読みます!


採れたて本!【歴史・時代小説#13】
連載第12回 「映像と小説のあいだ」 春日太一