週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.145 明林堂書店浮之城店 大塚亮一さん
『女の国会』
新川帆立
幻冬舎
今回、迷わずセレクトした一冊は新川帆立『女の国会』だ。
まずはなぜ迷わなかったかというところから説明しよう。
彼女の作品との出合いはデビュー作『元彼の遺言状』である。
皆さんご存じの方もいるとは思うが、著者の経歴について触れておこう。
東大卒で弁護士、プロ雀士、そして作家である。
この経験がふんだんにこのデビュー作には盛り込まれていながらも決して堅苦しくなく、登場人物から発せられる言葉はいきいきしていて小気味よいのだ!
そしてその後の作品もいい意味で裏切られまくり、大ファンになってしまったのだ。
前置きが長くなってしまったが、そんななかでの今作。
タイトルにある通り国会が舞台となるお仕事小説なのだが、その中にどんでん返しミステリあり、肝を据える人生ドラマあり、とにかくノンストップでページをめくる手が止まらないほどの面白さなのだ。
主な登場人物は、「憤慨しています」が口癖の〝憤慨ババァ〟こと高月馨と、国会で自分の立場が悪くなるとすぐ涙を見せてその場を乗り切ることから〝ウソ泣きお嬢〟と言われる朝沼侑子という、国会議員のふたり。
そんな二人は対立する政党に所属しながらも今国会での「性同一性障害特例法」は手を組み可決される予定だった……。
しかし法案は直前に否決され、朝沼侑子は「女に生まれてごめんなさい」と遺書を残して死んでしまう。
対立していた高月に疑いの目はかけられる。そう、世間は、高月が朝沼をなじったから朝沼はそれを苦にして死んだのではないかというのだ。
SNSは炎上し、党からは謝罪と国対副委員長の辞任を求められてしまう。
だが朝沼は叱咤されたくらいで死ぬような女じゃない。高月は真相究明に乗り出す。
朝沼の婚約者で二世議員の三好顕太朗、政治部記者の和田山怜奈、市議会議員の間橋みゆきらを巻き込み事件の謎に迫っていく。
いまだに根強く世の中に残る男女格差、圧倒的な男性社会の中で女性達がさまざまな壁や差別の中で戦っていく様があまりにもリアルに描かれる。
重くてリアルすぎる展開も、新川帆立の筆にかかればそれは痛快でどの登場人物にも思い入れしている自分がいる。
一気読み必至の新感覚女ハードボイルド小説だ!
あわせて読みたい本
『こまどりたちが歌うなら』
寺地はるな
集英社
前職の人間関係や職場環境に疲れ果て退職した茉子は親戚の信吾が社長を務める吉成製菓に転職する。そこは饅頭「こまどりのうた」のほか、大福、どら焼き等の和菓子を作る社員35名の製菓会社。彼らと働き始めた茉子は古い体質を変えるべく声をあげていくが、そう簡単には長年の慣習は変わっていかないことを肌で感じていく。不器用だがもがきながら日々を生きていく茉子を見ているとがんばれ!と応援している自分がいる。生きていくことはしんどいことも多いけど、一歩一歩進んでいった先には一筋の光が差し込んでくれると思わせてくれる作品。
おすすめの小学館文庫
『私が愛した余命探偵』
長月天音
小学館文庫
コイズミ洋菓子店で働く二葉には腹部に肉腫を抱え長期入院中の夫がいる。ある日その夫から、洋菓子店のお客様のエピソードを話して欲しいと言われ、それ以来二葉が持ち帰るささやかな謎を解き明かすことが日々の二人の楽しみとなった。闘病生活をする当事者、それを支える家族。もし自分がそういう立場になったとしたら、こんな風に過ごせるだろうかと考えさせられる。たとえ困難な状況に置かれても、物事の考え方をほんの少し変えるだけで前向きに生きていけるのだと思わせてくれる物語だ。
大塚亮一(おおつか・りょういち)
地方書店でも作家さんが行ってみたい!と思ってもらえることを目標に日々奮闘中。そしてお客様にもあの書店に行くとわくわくする!と思ってもらえるようなお店になることが最終目標の宮崎県の書店員。