週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.20 成田本店みなと高台店 櫻井美怜さん


新しい星

『新しい星』
彩瀬まる
文藝春秋

 あなたに友達はいますか?


「お前たち、クラス全員誰一人欠けることなく集まることはこの先一生ないぞ」と中学卒業式の日に先生がそう言った。それを聞いた私たちはそんなわけがない、クラス会で必ず集まるんだと騒ぎ、廊下まで響き渡るブーイングが起きたが、賭けてもいいと先生はやけに強気だった。別に誰かが死ぬと言っているわけじゃない。別の学校に行けばそれぞれ新しい友達が出来るだろう。その先は進学や就職で地元にいないかもしれない。クラス会を開いても、絶対に誰か一人は都合がつかなくて欠席するはずだ。だからお前たち、この面子で過ごす最後の日を楽しめよ、というような話だったはずだ。実際、先生の預言は的中し、私たちが全員集まることは今日まで一度もなかった。

 人生はままならない。人生のボタンの掛け違いは、普通のシャツのように正しい位置に留め直したからといって元の状態には戻らない。ゲームのように、全て正しい選択肢だけを選んで生きていくことは不可能で、私たちは間違い、ときに躓く。それはここで描かれる四人も同じだ。大学の合気道部で四年間一緒に汗を流した四人にも、それぞれ、人生の試練が訪れていた。青子は生まれたばかりの我が子を失い、玄也は上司とうまくいかなかったことが引き金となってひきこもり、茅乃は乳癌と闘い、卓馬は世界を一変させてしまったウイルスのせいで、田舎に帰った家族と別居状態が続き、スマホの画面越しに見る生まれたばかりの我が子がどんどん育っていってしまう生活に焦っていた。

 どん底にいるときに、自分を支えてくれるのが恋人や家族とは限らない。友達のありがたさを感じるのは、楽しい時間の共有よりも、痛みを分かち合ってくれた時だ。この作品には、まぎれもない友情と、人生の確かな再生の瞬間が描かれている。

 私の人生の針は今いったい何時を指しているのだろう。午後になり、太陽が一番高いところからだんだん降りてきたあたりだろうか。目の前に広がるのは夢と希望が広がる朝焼けではなく、これから暮れなずんでいこうとしている空だ。けれど、それはなにも悪いことではない。夕焼けは、朝焼けとはまた違う美しさを持っている。

 それにしても、大人になると友達を作るのがとたんに難しくなるのはなぜだろう。恋愛の始まりさえも「好きです、付きあってください」という告白の儀式を伴わなくなるというのに、「私たち友達だよね?」とはとてもじゃないが聞けやしない。

 あなたに友達はいますか?

  

あわせて読みたい本

終わらない歌

『終わらない歌』
宮下奈都
実業之日本社文庫

 学生時代の友人のその後を描く作品は数あれど、その「それから本」の中でも三本の指に入るであろう傑作。卒業してから三年後ではさほど時間が経っていないように思えるが、いやいや、二十歳までの三年間は長いのだ。

  

おすすめの小学館文庫

夜行

『夜行』
森見登美彦
小学館文庫

 モリミーの作品は、学生時代特有のあの輪郭のないふわふわとした友情がいつも確かに描かれている。かつての仲間が集まったことが物語の起因となるのだが、線路の先が見えないように、余韻がいつまでも残り続けるのだ。

 

  

(2021年12月3日)

『翡翠色の海へうたう』刊行記念対談 深沢 潮 × 内田 剛
今月のイチオシ本【エンタメ小説】