週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.23 うさぎや矢板店 山田恵理子さん

週末は書店へ行こう!

ミニシアターの六人

『ミニシアターの六人』
小野寺史宜
小学館

ミニシアターといえば浮かぶ作品がある。まさにミニシアターブームの火付け役となり、当時自身も足を運んだ『ニュー・シネマ・パラダイス』と『ベルリン・天使の詩』だ。小さめの空間でスクリーンから語りかけられた映画は、今も忘れられない。

映画館は、家で何かしながら観ることができるのとは違って、ひたすらスクリーンに集中できる、特別な場所なのだ。

タイトルにあるミニシアターという言葉からは、受け手それぞれに刻まれるノスタルジックな時間が呼び戻されてくるようだ。

小野寺史宜さんの紡ぐ本作は、東京・銀座のミニシアターが舞台となる。ある監督の追悼上映が行われ、邦画『夜、街の隙間』が始まる。銀座の街を舞台にした一夜の話がスクリーンに流れてゆく。

雨天のせいか観客は6人。同じ時間に同じ空間で同じ映画を観るという、偶然の巡りあわせの6人が、映画にまつわる記憶と現在を行き来して織りなす人生劇場から、ささやかな奇跡が起こる物語である。

6人はそれぞれ20歳・30歳・40歳・50歳・60歳・70歳。読者により共感できる世代があるのではないだろうか。

登場人物を紹介すると、60歳の善乃は20代の頃ミニシアターの窓口でチケット販売のアルバイトをしていた。彼女が作中でつぶやくように、私も映画は誰かと一緒に観るものだと思っていた。ある時ひとりで映画を観に行きその自由さに、今ではひとり客を楽しんでいる。ひとり映画未経験の方にはぜひおすすめしたい。

そして40歳の春子は中学校教師で、子どもの頃から映画をよく観ていた。50歳の英和は調味料をつくる会社に勤め、別れた彼女と最後に観たのがこの映画だった。70歳の昇治は映画を撮るのをあきらめ違う道を選んだ。

20歳の誕生日にこの映画を観た小夏。30歳の洋央は映画を撮る側で、この映画の監督とはきってもきれない関係がある。

夜が流れる。夜に彷徨う。

連作短篇のような繋がりで、まるで映画を観ているかの心地よさとともに、作中映画に映し出される銀座4丁目の交差点にある和光の大時計を見上げている臨場感に包まれる。

映画のスクリーンのラストも、小説のラストも、根底に温かいものが流れている。

大人の《自立》の中に輝く、ファンタスティックな奇跡が、どうしようもなく、せつなく、じんわり心に染みてくる。 喜びも哀しみも映画から、時には人生に溶けゆくかもしれない。映画を撮ってみたい人、映画を愛する人へ。《映画の力》《小説の力》に魅せられる作品だ。

 

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(2021年12月24日)

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