週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.39 うさぎや矢板店 山田恵理子さん

週末は書店へ行こう!

風の港

『風の港』
村山早紀
 徳間書店

空港は特別な場所である。仕事、旅行、家族や友人に会いに、見送りに、飛行機マニアとして、さまざまな理由で訪れ、空を見上げながら人生の1ページが刻まれていく。

著者の《空港》への愛が込められた本作のタイトル『風の港』の3文字からは、たくさんの人々が行き交うターミナルの賑わいと、華やかな雑踏に、笑顔や涙がドラマチックに浮かび上がり、読む前からやさしい風が吹いてくるようだ。

第一話では、漫画家の夢破れ故郷の長崎へ戻る亮二が、空港で似顔絵を描く仕事をしているベレー帽の老紳士に出会う。自分の顔を描いてもらい会話を重ね、過去から未来へ人生が動きだす。

第二話では、「本は魔法でできている」と祖母から教わった夢芽子が空港の小さな書店で働いている。本から世界が広がる読書の醍醐味は本好きな人にはたまらない感覚ではないだろうか。ある日の店頭での偶然の出会いが彼女の心を照らす。ファンタジーとSF要素がノスタルジックに心を彩る。

第三話では、親友同士だった、文芸誌の新人賞授賞式に参加する新人作家の恵と、女優の眞優梨が、33年ぶりに空港で再会する。過去のできごとの真相が明らかになるミステリー要素もある。章題の「夜間飛行」香水の香りが漂いながら、空に時が溶けていく。

第四話では、世界で活躍する奇術師フェリシア幸子の、旅の行方が描かれている。海を越えた平和の祈りが尊く美しく込められて、大切な人や生き物を守りたいと胸に響く。

人生という旅は続く。思いがけない出会いがあり、本の魔法にかけられて、強く優しくなれること、連作短篇に紡がれる言葉から伝わってくる。4つの物語がひとつになった時、見えてくる風景に温められ癒される。

漫画家、書店員、作家、女優、魔女、それぞれの人生にささやかな奇跡が起こる空港が舞台の物語は、空に輝く映画のようだ。

空港にプラネタリウムがあることを本作で知り、晴れた日に飛行機の離発着を眺めに、空港の施設を楽しんでみたくなる。

まるで空港にいるような臨場感と、わくわく旅に出る新しい気持ちになれる。いつの時代も、空港の中には希望がある。いい風が吹くときに、心を風にのせてみよう。今すぐ空港に行きたくなる小説だ。Bon voyage!

 

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(2022年2月25日)

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