週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.43 TSUTAYA中万々店 山中由貴さん

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あの図書館の彼女たち

『あの図書館の彼女たち』
ジャネット・スケスリン・チャールズ 訳/高山祥子
東京創元社

 いま、わたしたちは戦争を目の当たりにしている。
 もちろん紛争や内戦はこれまでも常にどこかで起こり、犠牲者は絶えない。だけど、崩れて住むことのできなくなった誰かの家や、公園や、遺体が無造作に転がる道路や、そこで戸惑い、打ちひしがれる人々の声や表情が、こんなにも膨大な情報量で報道されると、あらためて戦争はいま、すぐそこにあるんだと感じずにはいられない。
 そんな日々が続くなか、わたしはこの本と出合った。
 ジャネット・スケスリン・チャールズの『あの図書館の彼女たち』だ。

 1939年、パリ。アメリカ図書館(the American Library in Paris)はオディールにとって特別な場所だった。物語に囲まれて息をし、図書館にいるスタッフや長年の利用客たちは家族のようなもの。そこで人々が、自分がそうだったように図書館を安息所とし、夢を見られる場所として必要とするときにいつでもそこに在ること。オディールはそう願い、司書としての人生をスタートさせる。
 だがその翌年には、ナチス・ドイツのフランス侵攻がはじまる──。

 一方、それから40年ほどのちのアメリカ。隣人と知り合った少女リリーは、周囲と打ち解けようとしない老女オディールとの距離を少しずつ近づけていく。
 物語はふたつの時代から、オディールの人生を浮かび上がらせるのだ。

 ナチス占領下、アメリカ図書館は何度も閉鎖するかどうかの選択に迫られる。しかしそのたびに、危険をかえりみず扉を開けつづけ、蔵書を避難させて守り、図書館に来られない兵士や負傷者に本を送り届ける館長と司書たち。これは架空のおはなしではない。巻末の「著者の覚書」にもあるとおり、勇気ある司書たちは事実として存在する。物語に登場する幾人かは実在する人たちだ。
 印象的なのは、オディールが病院の負傷兵に本を読み聞かせ、図書館の人々のはなしを語って聞かせながら彼を看取る場面。迫害されるユダヤ人利用客にこっそりと本を届けにいく最中にドイツ兵に見咎められるという、心臓が縮み上がるシーンもある。

 この物語といま起きている戦争とがいやおうなく結びつけられ、じぶんだったらどう行動するだろうかと考えて、ページをめくる手がしばらく止まることもしばしばだった。わたし自身、本を愛し、本に囲まれて働く仕事をしている身として、非常事態にどれだけの決意ができるだろう。それでも本を届けるんだと思えるだろうか。戦争がごく近くにあるからこそ、それは簡単には決心のつかない、答えようのない問いだ。だけど考えることをやめてしまうのは、実在した彼らのような司書たちの意志を無視することになる。

 物語は、戦争によって歪められてしまう人と人との信頼関係を最後に突きつける。オディールの心のなかでずっと消えることのない秘密を、あなたは受けとるだろう。
 暴力に屈しないだけの知識を、他者の痛みを想像する力を、わたしたちは本から得ることができる。本を送り届けるという行為は、本に携わる人間の、暴力によってではない戦い方だとわたしはこの物語に教わった。
 戦争による目に見えない攻撃をもわたしたちは最大限想像し、人に手を差し伸べて、ぬくもりを伝え合わなくては。

 

あわせて読みたい本

アウシュヴィッツの図書係

『アウシュヴィッツの図書係』
アントニオ・G・イトゥルベ 訳/小原京子
集英社

 こちらも、ナチスの捕虜収容所にひっそりと実在した学校、そして蔵書わずか8冊の図書館のおはなし。14歳のディタは図書係となり、本を隠し持って守るという危険な仕事を任される──。本があるから絶望の淵でも生きる力を失わずにいられる、それを示した傑作。

 

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