週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.27 TSUTAYA中万々店 山中由貴さん
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- BECK
- デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックスがマジで最高だった頃
- テイラー・ジェンキンス・リード
- ハロルド作石
- 世界でいちばん美しい
- 山中由貴
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- 藤谷治
『デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックスがマジで最高だった頃』
テイラー・ジェンキンス・リード
訳/浅倉卓弥
左右社
1970年代、あるロックバンドが最高のアルバムをひっさげて人々の記憶に残る名曲をいくつも残しながらヒットチャートを駆けのぼり、そして突然音楽シーンから姿を消した。
「ザ・シックス」のフロントマン、ビリーと、天性の歌声をもつデイジー・ジョーンズが出会い、たがいに相容れないまま詞とハーモニーをぶつけ合い、火花を散らすように音楽を生み、聴衆を魅了して伝説をつくったロックバンドこそ、あの「デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックス」だ。
そしてそのかつてのバンドメンバーや周囲にいた関係者へのインタヴューのみで編集された回顧録、それが本書『デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックスがマジで最高だった頃』である。
──というのが、まるまるすべて架空の話なのだからぶったまげる。
バンドが実在するわけでもないのに、わたしはなぜこのとんでもない分量のインタヴュー集を一気に読んでしまったのか。
それはもうただ一言、マジで最高に面白い、からだ!!!
ふつうだったら、最上の音楽が鳴る場面を、作者がいかに筆を費やして書くか、が本来の音楽小説ではないだろうか。わたしたちが読みたいもの、求めているものは、音楽そのものを作者がどんなことばで表現してくれるか、ということだ。
だけどこの作品では、その要の音楽は、つねに人びとの口を介してしかわたしたちに伝わってこない。間にワンクッションおいて語られる、もどかしい形式。なのに、だ。そんな異例の手法であるにもかかわらず、逆に、それがどれほど素晴らしい出来で、どれほど切なく美しい声で歌いあげられるか、これでもかと煽ってくるのだ。
いやほんとにもう、こんなにフィクションであることが憎らしい小説はほかにない。
リアリティをもって語り尽くされ、みながあれはすごかったといっているのに、伝説のライヴも、曲のひとつも、彼らの歌声のワンフレーズたりとも、すべてこの世にはないものなのだから。
張り合うヴォーカリストふたりの化学反応。磁石のように惹かれて反発し合う人間関係。頂上へのぼっていきながら今にも膨張して爆発しそうな不穏さ。酒とドラッグに頭まで浸かりながらなお輝きを放つ、デイジーのたぐいまれなる存在感と歌。友情と恋。孤独。音楽が生まれてくるときの「その曲がそうでなければならない理由」みたいなもの。
なにより、音の向こうでひりひりと、きらきらと生きる人らの感情が、魂に触れてくるから、音楽ファンだけでなくあらゆる人を痺れさせるのだ。
すべてが最高に最高で最高すぎる。
ああいま、彼らのアルバム『オーロラ』が聴きたくて狂いそうだ。
あわせて読みたい本
音楽を文章で奏でるすごさ、というものがあるなら、それを絵のみで表現して歌声を聴こえさせたのが『BECK』だ。ほかの誰にもまねできない声で、平凡な中学生だった主人公が仲間とともにロックシーンを揺るがしていくさまは、震えがくるほど興奮する。
おすすめの小学館文庫
『世界でいちばん美しい』
藤谷 治
小学館文庫
音楽の神さまに愛されている人の物語は、どうしてこんなに切ないんだろう。ピアノがすべてのせった君が恋をし、変わっていく──。そのなかで浮かんでは弾ける音楽が、あまりにも美しくて心に迫る。
(2022年1月28日)