◎編集者コラム◎ 『夏至のウルフ』柏木伸介

◎編集者コラム◎

夏至のウルフ』柏木伸介


夏至のウルフ連載写真
「夏至のウルフ」は表題作のみ「STORY BOX」(2021年5月号)に掲載、他は書きおろしです。

「このミス」優秀賞作家・柏木伸介氏による『夏至のウルフ』は、著者の地元である愛媛県松山市を舞台とする警察小説です。

「よもだぎり言(ゆ)うな」。そんなセリフがたびたび出てきます。いい加減なこと言うな、といった意味の伊予弁です。校正に手こずりました。というより、最終的には著者任せです。方言しかり、ドジョウやうどんといった料理しかり、地方色満載です。編集が終わったとき、パッと頭に浮かんだのは、「松山発の超ローカル警察小説」というフレーズでした。帯にもそう書いています。

 地方を舞台とした警察小説は珍しくありませんが、著者の場合はそうではない。これまで柏木氏は、諜報小説のエッセンスを取り入れた「クルス機関」シリーズや、正統派警察小説の「剣崎恭弥」シリーズを発表してきました。大ざっぱにくくると、日本を揺るがす、もしくは世界情勢にも連なる大事件が題材とされ、「黒幕」「悪」と形容するに相応しい犯人と対峙する物語構造をもっていました。

 その点、本作では、小さな事件しか起こりません。「殺し」が発生するのも全5編のうち、2編です。動機も生活の困窮が背景となったものばかりです。派手さはない。しかし、本作はそれを補ってあまりある「リアリティ」、そして「味わい」があります。

 寂れゆく一方の商店街に歓楽街。若者は東京や大阪に向かい、残った人々に不景気の波が押し寄せる。精神はささくれだち、諍いも絶えない。ゆえに犯罪も起こる。

 そうした地に根をはり、市民の暮らしを守るのが松山東署です。曲者揃いで「道後動物園」と呼ばれます。その筆頭格がウルフの異名を持つ、バツイチ、家なし、39歳の破天荒刑事になります。捜査の終盤、「狩りモード」(集中力が高まる特異能力)を発動させ、大事件ならぬ難事件を解決します。

 どことなく演歌調のミステリには、地方ならではの「悲哀」を感じさせます。これこそ、ニッポンの現実。地べたからそれを照射した本作は、著者の新境地ともいえます。

 担当編集として、続編希望です。

──『夏至のウルフ』担当者より

夏至のウルフ

『夏至のウルフ』
柏木伸介

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