今月のイチオシ本【警察小説】

『ドッグデイズ 警部補 剣崎恭弥』
柏木伸介

今月のイチオシ本【警察小説】

祥伝社

 ハードボイルド・ヒーローといえば、卑しい街を一人ゆく騎士的存在だったが、一九七〇年代、アメリカではベトナム戦争で心身に傷を追ったヒーローが登場。彼らの活躍を描いた作品はネオ・ハードボイルドなどと呼ばれた。

 神奈川県警の一匹狼刑事の活躍を描いた本書は、そのネオ・ハードボイルド作品を髣髴させる。いや活躍というと語弊があるか。主人公の県警刑事部捜査第一課強行犯捜査第七係主任・剣崎恭弥警部補は殺人犯を追ううちに我を忘れて暴走することも珍しくない。その名をもじって〝狂犬〟呼ばわりされる男なのだ。

 彼は少年時代に同級生女子が犠牲になった連続殺人事件──被害者を西洋の少女人形、ビスクドールに見立てた事件の犯人を目撃したにもかかわらず彼女を助けられなかったことがトラウマになっていた。もともと人より五感が鋭いHSPと刺激追求型のHSSという二つの気質が共存するタイプなだけに、心の傷は深く、未だに抗不安薬に頼る身、となればなおさらだ。

 物語は六月某日、彼が相模原署管内で起きた銃撃事件で犯人を検挙したはいいが、相棒の相模原署の女刑事に重傷を負わせ、首席監察官の半倉隆義、通称「ハング・マン」の追及を受けるところから始まる。ビスク事件の犯人「クリエイター」こと雛形紀夫はその後剣崎の証言が決め手となり、今は死刑囚の身であったが、時々剣崎を拘置所に呼び出しては毒を吐いていた。最後の面会で雛形は「本番は、これからだ!」とわめくが、七月半ばに死刑執行。だがそれは事件の終わりではなかった。数日後ビスク事件と同じ手口による女の他殺死体が発見される。

 剣崎のキャラクターもさることながら、体言止めを駆使したぶつ切り調の文体はジェイムズ・エルロイや馳星周のノワール作品を髣髴させる。ネオ・ハードボイルドならぬネオ・ノワールか。銃器描写が細かいのも普通の警察ものとは一味違う点だ。著者にはこのミス大賞優秀賞を受賞した『県警外事課クルス機関』のシリーズがあるが、また楽しみなシリーズを新たに発進させてみせた。

(文/香山二三郎)
〈「STORY BOX」2021年2月号掲載〉

【著者インタビュー】木下半太『ロックンロール・トーキョー』/才能と運だけがモノを言う東京で、映画監督になる夢を追う
【映画化記念】名作SF小説『夏への扉』、原作の3つの魅力