◎編集者コラム◎ 『ぷくぷく』森沢明夫
◎編集者コラム◎
『ぷくぷく』森沢明夫
この本のタイトルを見てどんな小説だと思いますか? 福々しい? 浮かんでいる? 猫の肉球のよう? どれも近くて惜しい……。
手にとって読んでいただければ、その意味はわかるはずですが、このタイトルは、10数本あったタイトル候補の中で、著者の森沢明夫さんがイチオシで、すんなり決まりました。
可愛い語感とひらがなで同じ言葉が繰り返されていていて、覚えやすいのではないでしょうか?
主人公は「ふたり」。恋愛に臆病なイズミ。イズミのそばにいて、イズミの悩みを誰よりも知っているのに、アドバイスの言葉も伝えられないボク。
都会のひとつ屋根の下に暮らす「ふたり」の孤独で平穏な日々の中に、新たな男性が現れます。この男性は、イズミにとって幸せをもたらす人物なのか、あるいはイズミを悲しませる人物なのか……。家から出ることができないボクの思いはかき乱されていきます。
ボクは知っています。イズミが引っ込み思案なのは、心と体に、人に言えない傷を持っているから。そしてボクも同じ傷を持つ仲間……。
果たして、イズミは痛みを乗り越えて新しい恋に飛び込んでいけるのでしょうか? 幸せになって欲しいというボクの思いは通じるのでしょうか?
実は、森沢明夫さんは、この小説の重要な登場人物のひとりに、ある思いを込めて名前をつけています。登場人物の名前はふたりの名前を合わせて作られました。ひとりは映画プロデューサーで、これから森沢さんの作品を映像化することになっていました。もうひとりは、凄腕の書店員さんで、森沢さんの小説を全国でトップクラスに売り上げてくれていました。
しかし残念ながらふたりとも、若くして世を去ることとなってしまいました。そんなふたりを小説の中に残そうとして、このキャラクターの名前が作られました。このキャラクターが、小説の中で、どんな役割を演じ、どう主人公たちに絡んでくるのか。ぜひ、この手に取って確かめてみてください。
思いもよらぬ展開の数々が物語には仕掛けられていますが、読後感の温かさについては、保証いたします。
そして、植物の鮮やかな色が目を引く装画は、イラストレーターの大久保つぐみさんの手によるもの。大久保さんは柴崎友香さんや柚木麻子さんなどの小説の装画なども手掛けられ、植物をモチーフにした作品で知られます。この作品では「ふたり」が暮らす部屋の中にたくさんの緑を描いてもらいました。読み終わった後にもう一度装画を見ると、気づかなかったある驚きが待っていることと思います。
最後に、もうひとつ。目次にある各章のタイトルの中には、秘密が隠されています。それがわかると、この作品に森沢さんが込めたメッセージが浮かび上がり、さらに温かい気持ちに包まれるはずです。
──『ぷくぷく』担当者より
『ぷくぷく』
森沢明夫