人生終わるまでわからない!? 内館牧子ら人気作家による話題の「終活小説」4選

シニア世代には共感を呼び、ミドル世代には人生を見直すきっかけに、若い世代には将来を考えるヒントとなりそうな終活小説4選を紹介します。人気作家たちによるエンディングストーリーはどれも個性豊かで、生きるパワーが感じられるでしょう。

『すぐ死ぬんだから』(内館牧子)――老いを吹き飛ばす主人公が痛快で傑作


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1988年に脚本家デビューし、「ひらり」で1993年第1回橋田壽賀子賞を受賞後、数々の賞を受賞している人気脚本家であり小説家の内館牧子による終活小説です。2018年に刊行され、2021年に一部加筆修正、文庫化されました。痛快で魅力的な主人公・ハナから生きるパワーをもらえます。

78歳のオシハナはいつも身綺麗にしファッションに気を使っている女性。身なりにかまわない同世代を見ては、自分は婆サンくさくならないと、いつも夫の岩造に息巻いています。そんなハナも実は60代までは、身なりにかまわないオバサンでした。しかし、68歳のとき六本木のブティックで70代に見られたことをきっかけに、人一倍身なりに気を使うようになっていたのです。

 年を取れば、誰だって退化する。
 にぶくなる。
 ゆるくなる。
 くどくなる。
 愚痴ぐちになる。
 淋しがる。
 同情を引きたがる。
 ケチになる。
 どうせ「すぐ死ぬんだから」となる。
 そのくせ、「好奇心が強くて生涯現役だ」と言いたがる。
 身なりにかまわなくなる。
 なのに「若い」と言われたがる。
 孫自慢に、病気自慢に、元気自慢。
 これが世のじいサン、ばあサンの現実だ。
 この現実を少しでも遠ざける気合いと努力が、いい年の取り方につながる。
間違いない。
 そう思っている私は、今年七十八歳になった。
 六十代に入ったら、男も女も絶対に実年齢に見られてはならない。

この冒頭の語りにハナの勝気な性格や老いに負けないという心意気が垣間見られて、先制パンチのように心に響きます。

ハナと来年80歳になる夫の岩造は、3代続くおし酒店を切り盛りし苦楽をともにしてきた仲良し夫婦。今では息子夫婦に店を譲り、店から3分ほどの麻布のマンションで悠々自適に過ごしています。折り紙が趣味の心優しい岩造は、ハナのことをいつも「若くてきれいだ」と褒めてくれます。その岩造が倒れたことから物語は思いがけない方向に進んでいき、しだいに夫の隠された秘密が明かされていくのです。

ベストセラー小説と言われるだけあり同世代に共感を呼ぶだけではなく、全世代が面白いと感じられる小説です。ハナの飾らない心のつぶやきに、思わず笑ってしまうでしょう。

『夫の墓には入りません』(垣谷美雨)――嫁はいつまで嫁なのか?


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映画化もされ話題となった『老後の資金がありません』の著者による終活小説。2017年刊行の単行本『嫁をやめる日』が、2019年の文庫化にあたり改題、加筆修正されました。巻末の弁護士・角田龍平による解説が、物語によりリアル感を与えています。

物語は46歳で急死した高瀬たかせ葉子よこの夫・堅太郎けんたろうの葬式から始まります。夫より2つ年下の夏葉子は、夫との最期の別れに際しても悲しみの涙ひとつ出ません。証券会社勤務の夫は残業、出張と不在がちで、連れ添った15年間のうち夕飯を共にしたのも数えるほど……。とうに愛情はなくなっていました。子もなく幾度か離婚をと思った夏葉子でしたが、地方紙ライターのパート職では経済力が乏しく思い留まっていたのです。
夫が亡くなり1人になれた開放感も束の間、夫の愛人疑惑、舅や姑との関係、相続問題、引きこもりの義姉の存在など、未亡人の夏葉子に問題が山積みになっていきます。

四十九日の納骨日、高瀬家先祖代々の墓を見て夏葉子は驚愕します。なんとその墓には生前なので朱文字ではあるものの、自分の名前も刻まれているのです。

 え?
 その隣には……まさか、これは私の戒名なの? 「葉」という字が入っているのは夏葉子という名から一文字を取ったものなのか。視線を下げて俗名のところを見ると「夏葉子」とはっきり彫られていた。
 息を止め、茫然と立ちすくんだ。自分が死んだらこの墓に入るらしい。ここに到達するまでの人生のレールは既に敷かれている。そのレールから脱線はできませんよ、と言われているのだ。

姑は「朱文字を入れておくと長生きができる」と、気を利かしてやったというのです。夏葉子は夫の死後も嫁として、夫の両親、親戚、義姉などに縛られるのかと思い恐ろしくなります。そして新しい恋の予感が、さらに夏葉子を翻弄します。果たして夏葉子は、幸せな人生のエンディングへと向かうことができるのでしょうか?

人生において誰にでも起こりうる数々の問題が、軽妙なタッチで描かれています。幸せな後生を過ごすためには、何を大切に思い、優先させればいいのかを考えさせられる作品です。

『終活の準備はお済みですか?』(桂望実)――人生の棚卸しに1冊のノートを


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2003年『死日記』で「作家への道!」優秀賞を受賞し、05年に刊行され翌年に映画化もされた『県庁の星』の著者による2021年書き下ろしの作品です。終活サロンに訪れたさまざまな人たちの物語や心の機微がきめ細やかに描かれています。

53歳の三崎みさききよしが再就職した終活サロン「満風会まんぷうかい」は、葬儀会社千銀堂が葬儀市場縮小による減収を補うために作った子会社。人生の見直しや終活に役立つようにと、終活相談員の三崎から相談者に1冊のオリジナルエンディングノート・「満風ノート」が渡されます。
そのノートには、もしものときのために自分の意向を書いておくページに加え、今までの自分の人生を振り返る“自分史”を書くページもありました。
最初は戸惑いつつも、このエンディングノートをきっかけに30代から60代後半の男女4人の相談者たちが人生の見直しを始めます。

第1章の主人公はコーヒーチェーンを展開する会社に勤める55歳の独身女性・鷹野たかの亮子りょうこ。母が急死だったため葬式など母の意向を汲めずに後悔したことから、自身は事前に終活相談をしておきたいと三崎のもとを訪れたのです。ですが、満風ノートを渡されてからしばらくしても、50代とまだ若い亮子は書き込めないでいます。

清は説明する。「弊社の社長の受け売りなんですが、ここは終活サロンで、終活のご相談を受けてアドバイスをさせていただくところではあるんですが、お客様は皆さん、ここに人生の見直しをなさりにいらしてるそうなんです。
(中略)
ですから、まずはゆっくりと時間を掛けて、ご自身の人生を見直して、それからおいおいと決めていけばいいんじゃないんでしょうか」

 
このように三崎はエンディングプランを書くよりも、まずは今まで生きてきた人生を振り返ることをアドバイスします。そうすればおのずと将来のプランも決まっていくからと……。

亮子は30年ほど前に企画部にいたとき、自身発案の軽食メニューが採用され嬉しかった経験や、32歳から2年続いた苦い恋の思い出など、半生を走馬燈のように思い出しノートに綴り始めます。そして、ライバル会社から引き抜き話がきている今の状況に悩みながらも、後生をどうしていきたいかを考えられるようになっていくのでした。

1章に1人ずつの人生やエンディングへの思いが綴られ、最終章では終活相談員・三崎自身の終活プランが描かれます。誰にでも必ず訪れる人生の最期に向けて、人はどれだけのことをやれるのか、やりたいのかと考えるきっかけをくれる作品です。

『終活中毒』(秋吉理香子) ――思わず一気読み! ミステリーあり感動ありの4編


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2022年8月刊行の本書は、Webジェイ・ノベル(実業之日本社運営のサイト)で配信され人気を得たWeb小説が収録されたものです。作家の秋吉は、2008年『雪の花』で「第三回Yahoo! JAPAN文学賞」を受賞し、2017年に映画化された『暗黒女子』でも話題となりました。
今作ではミステリー仕立の話から涙を誘う感動ものなど、バリエーション豊かな終活ストーリーの4編が収められています。最初の「SDGsな終活」は、ミステリー要素が強いのでぐいぐいと惹き込まれていくでしょう。

「そうだね、秋も冬も、色んな野菜を植えよう」
 真美子の頬に指を滑らせながら、僕は毎日している問いかけを心の中で繰り返す。
――ところで君は、いったいいつ死んでくれるんだい?

                                                               
都内にある有名な総合病院で化学療法センターのメディカルスタッフとして働く“僕”は、大病を患う40代の患者・村井真美子と知り合います。自然な出会いを装いましたが、僕にはある狙いがあったのです。

「え、じゃあご両親はもう……」
「うん、見送った」
「そうでしたか……」
 いいぞ、と内心思う。
「でも今度はあたしが大病をしちゃうなんてねー。神様っていじわる」
 前向きな笑顔が、その時は崩れた。
「そんなことを言わずに。ご主人やお子さんが悲しみますよ」
「いないもん。あたし、ずっと独り身。出会いがなくて、婚期逃しちゃった。あはは」
「お仕事でも出会いはなかったんですか?」
「仕事って言ってもさ、親が持ってたビルを管理してるだけだもん。それだって管理会社に任せてるし、家賃を受け取るだけだよ。あたしはどこにも出かけないし、誰にも会わない。どっかに働きに行けばよかったかもしれないけど、あたしなんにもできないからさ」
なんと。予想以上の上玉だ。
この会話で、真美子は僕のターゲットになることが決定したのだった。

(「SDGsな終活」より引用)

ほどなく恋人関係となり結婚した2人は、SDGsに懲り始めた真美子がマンションを売って購入した広い庭付きの家で暮らし始めます。都会から2時間離れた郊外のこの家で、真美子は庭と菜園の手入れやパッチワークなどをして穏やかに過ごしています。
冒頭のゾクっとする僕のつぶやきが出たのは、この郊外の暮らしでのこと。歳にそぐわない甘い声で真美子から「恭ちゃん」と呼ばれている僕は、彼女に苛立ち始めています。なぜなら余命宣告をされたはずの彼女が、いつまでも健やかそうにしているからでした。
その後、2人には思わぬ展開が……。

終活とミステリーを融合させたこの作品は斬新で、若者にもおすすめです。そのほかにも、ライバルだった人気作家の形見分けで心揺さぶられる70代女性の話、癌宣告を受け終活にお笑いグランプリへ挑戦する売れない40代の芸人男など、一気に読んでしまいたくなります。インパクトあるタイトルとは対照的なスカイブルーの華やかな表紙カバーが印象的です。

おわりに

“終活”とは断捨離したり、葬式や墓などの人生最後のプランを決めることだけではなく、残された大切な時間をどう生きるかを考える機会なのではと気づかされます。手にとってみてはいかがでしょうか。

初出:P+D MAGAZINE(2022/09/09)

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