週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.81 大盛堂書店 山本 亮さん
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2021年頃から Twitter のツイートにてツリー形式で創作される「 Twitter 文学」が話題になっている。誰でも投稿ができて気軽に人の眼に触れられるのもあってか、たくさんの作品を閲覧することができる。内容も色々で仕事に関係したものや投稿者のプライベートに題材を得たものもあって興味は尽きない。そのなかでも注目される書き手に麻布競馬場が挙げられるだろう。
昨年刊行されたデビュー作『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』は、東京で生活して何者にもなれなかったと感じている30歳前後の人間たちの、自分や他人への憐れみや憧れ、狂おしい妬みがビビットに繰り広げられる作品だ。その色々な人間模様に自分もと思い当たる読者も多いはずだが、不思議と反感を覚えないのは、誰にでも書けそうで書けない平易な文章によって、それぞれの生き方に流されず冷静に淡々と描く著者の力量も理由の一つではないか。したがって読み手がいくら嫉妬や怒りを作品へ投げつけても、作品自体が鏡となりその姿を映し出した結果、今日常を送っている自分というありのままの存在を、かえって物語から否が応にも問われていることに気づいてしまうはずだ。
もう一つ Twitter 文学内で注目されるジャンルが、都市部のタワーマンションに住む住人たちの生活を描く「タワマン文学」だ。なかなか一筋縄でいかなそうな投稿者による諧謔みのあるトリッキーな作風が印象的なものが多いが、今回紹介する外山薫のこちらもデビュー作『息が詰まるようなこの場所で』も同じ系譜と言って良い作品だと思う。まず帯の惹句が目を引く。「タワマンには3種類の人間が住んでいる。資産家とサラリーマン、そして地権者だ。」
これだけ読むとどろどろした人間模様を予想してしまうが、意外にもストレートに登場人物の心情を細やかに描写する鮮やかな「家族小説」に仕上がっている。
銀行に勤める共働きのパートナー同士を中心に、医師である資産家、舞台のタワマンの地権者の三家族をそれぞれの中学受験など進路決定を控える子供たちの様子とともに丹念に描いている。さらに自分の邪な本音が漏れてしまうのではないかという恐れと、相手の足りない物は自分には無い物と感じてしまう寂しさが心を打つ。
タワーマンションの窓から瞬く灯の数だけ人生がある。登場人物たちの心の声を雄弁に語らせた正解のない物語。この家族たちに光を見るのか、それともぬぐい切れない人生の陰を見るのか。それは読み終えた読者次第。罪作りでもあるが自分自身の人生と生活と、そして先が見えない世の中をこの作品から考え直すきっかけにもなるのではないだろうか。
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マイペースに日々を過ごし何者にも振り回されたくないのに、人や周囲の雰囲気に振り回されてしまうままならなさ。それでもふとした瞬間に著者の譲れない真っ直ぐな芯がページに現れて、思わずこちらも心の中の背筋がすっと伸びる。自然体でいながら時に強張って身動きが取れなくなる自分を見詰め、それでもその先へ解き放たれたい想いが満たされた素晴らしいエッセイ。一人の女性が東京に住むということをあらゆる面から実感できるはずだ。