◎編集者コラム◎ 『かすがい食堂 夢のゆくさき』伽古屋圭市

◎編集者コラム◎

『かすがい食堂 夢のゆくさき』伽古屋圭市


「夢のゆくさき」写真

 お店の場所は駄菓子屋さんの奥、オープンは週に2回、買い物も調理もみんなで行い、1食200円。事情のある子どもたちが通う「子ども食堂」が東京の下町にあります。その〝かすがい食堂〟を舞台にしたシリーズ、第3作が発売されました!

 第1作『かすがい食堂』は、発売直後に著者の伽古屋さんが「王様のブランチ」に出演し、第2作『かすがい食堂 あしたの色』の発売後、今年の1月にはお芝居になり「かつしか演劇祭」で上演されました。舞台化してくださったココロエデュケーションラボさんは、子ども食堂の運営にもかかわる団体です。実際に現場で活動される方たちに作品が届いていることに感激しましたし、舞台当日の子どもたちを中心とした役者のみなさんの演技に胸が熱くなりました。ありがとうございます!

 さて、話を本作に戻します……。

 祖母の朝日が営んでいた駄菓子屋かすがいを継ぎ、駄菓子屋のおばちゃんになった春日井楓子が店の奥で子ども食堂を始めて2年。現在の参加者は、夕飯代わりにお菓子を食べていた翔琉(かける・小6)と、母子家庭で育ち自活したいと考える亜香音(あかね・中2)、日本で働く母親に呼び寄せられたベトナム人のティエン(小5)の3人です。おとなしかった翔琉が自分の考えを言うようになっていたり、亜香音の〝商売〟が進化していたり……子どもたちの成長が眩しいです。

 買い物に訪れた商店街の店でかけられた「彼女、家の料理を全部つくってるんだって。それも毎日。いまどき珍しい、感心な子よねー」という言葉に、楓子の心のうちがざわつくところから物語は大きく動きます。

 伽古屋さんが本作のテーマにしたのは、ヤングケアラー。家族の介護や世話を親の代わりに担わされている子どもたちです。楓子は商店街で聞いた「いまどき珍しい、感心な子」がヤングケアラーではないかと疑ったのです。楓子は、彼女と再会するタイミングを待ち、「うちに食べにこない?」と声をかけるのですが、はたしてその〝お節介〟は届くのでしょうか──。

 子どもたちを取り巻く社会問題に大きく切り込んでいくことがこのシリーズの魅力です。これまでも、いじめや貧困、摂食障害や差別などを取り上げてきました。また、舞台となる食堂での楽しいシーンも読みどころです。本作に登場する冷凍食品だけのごはん、試してみたくなりますよ。

 また、作家の深沢潮さんに解説をご寄稿いただきました。シリーズの魅力をたっぷり書いてくださっているので、こちらもぜひお読みください。

 そしてシリーズものって、1作めから読まなくちゃだからなーと思っているあなた! 大丈夫です。どの作品から読んでも楽しめます。安心して「夢のゆくさき」から読んでください。そして、第1作、第2作も読んでいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします!

──『かすがい食堂 夢のゆくさき』担当者より

かすがい食堂 夢のゆくさき

『かすがい食堂 夢のゆくさき』
伽古屋圭市

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