◎編集者コラム◎ 『長篠忠義 北近江合戦心得〈三〉』井原忠政

◎編集者コラム◎

『長篠忠義 北近江合戦心得〈三〉』井原忠政


 大河ドラマ「どうする家康」もラストスパート。さて、あまりに突然ですが、あなたが戦国時代にいるとして問題です。

 問1:トリカブトの毒が入用に。今は開花時期でもない。どうする?

 答え:ニリンソウやヨモギに似た葉を探す。根が塊根になっていれば、ごく少量を潰して指の股に塗ってみる。痺れなどあればトリカブト。

 問2:山中で吹雪が! どうする?

 答え:小さめの木を引き倒し簡易的な小屋に(葉を残した枝が垂れ下がり屋根や壁になる)。雪を踏み固め、丸太や枝を敷いて火床とする。

『長篠忠義 北近江合戦心得〈三〉』写真
今作も、井原さんに200冊強のサイン本を作っていただきました!

北近江合戦心得」は、浅井の忠臣・遠藤与一郎が、仇である信長麾下の秀吉に仕え、主家再興を目指す戦国絵巻シリーズです。もう一つの人気シリーズ「三河雑兵心得」と同様、足軽からスタートする主人公の視点で、激動の戦国時代を描き出します。

 大迫力の合戦シーンや、魅力的な人物が巧みに歴史に絡んでいく様が楽しい一方――冒頭の問答のような〝ディテイル〟そして〝トリビア〟も滅法面白く、井原作品の魅力の1つだと考えています。

 例えば、弓の名手である与一郎が、試し打ちをする場面。

(正射必中……南無三)

 放つと同時に、左手親指を外側やや下に向かってグイと捩じった。この捩じりこそが矢を真っ直ぐに飛ばす秘訣なのである。

 また例えば、設楽原の最前線で戦う場面。

 二人はそれぞれ四個ずつの首級を腰にぶら下げている。いずれも兜首だ。(中略)ただ、首級四個で六・四貫(約二十四キロ)はあるし、重さ以上にかさばって邪魔になる。

 弓を射るときの一工夫や、腰につけた首の重さ。意識していなかった微細な部分が補完され、戦場の様子がさらなる生々しさをもって浮かび上がってきませんか。

 また、与一郎は、秀吉から無茶な任務を言いつけられがち。暗殺に使うトリカブトの毒を教えてくれたのは、女猟師の於弦。一向一揆監視のため、潜行する越前の山中で吹雪に遭ったときは、元山賊頭の弁造と、元鯖江の地侍・左門という家来たちが、テキパキと簡易小屋を建ててくれました。そんな得意分野が光る頼もしい家来たちですが、与一郎にはまた繊細な悩みも……。

「殿、百匁筒が欲しくなりますなァ」

  と、弁造が与一郎を見た。

「そ、そうやな」

(阿呆。百匁筒は金百二十両〈約千二百万円〉やぞ……そんなもの買ったら、残り一年霞を食って暮らすことになるわい)

 主人としての威厳も大事だ。世知辛い愚痴は、心の中だけで零し、表面的には笑顔で頷いていることにした。

 秀吉の無茶振りに応え、家来たちの人心掌握にも心を砕く。具体的な金額を思い浮かべながら悩む与一郎の姿は、現代の中間管理職そのもの。心情のディテイルも合わせて、お楽しみください。

──『長篠忠義 北近江合戦心得〈三〉』担当者より

長篠忠義 北近江合戦心得〈三〉
『長篠忠義 北近江合戦心得〈三〉』
井原忠政
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