◎編集者コラム◎ 『見果てぬ花』浅田次郎
◎編集者コラム◎
『見果てぬ花』浅田次郎
朝飯は金 昼飯は銀。夕飯は銅。祖父は朝食の膳を前にして、しばしばそう宣うた
「Where is Viking」
浅田次郎さんの旅エッセイ人気シリーズ第五弾となるこの作品は、コロナ禍を乗り越えたわたしたちに、改めて旅の面白さと醍醐味を与えてくれるエッセイが41編収録されています。
JAL機内誌『SKYWARD』で長年連載中のエッセイから収録したもので、空の上でお読みになった方も多いかもしれません。
旅の空で遭遇する驚くような出来事と深い考察に溢れた内容ばかりで、一編読むごとに充足感に満たされます。
今回の第五弾は、旅の途中での出来事に加え、冒頭のように食いしん坊な祖父を持つ浅田さんが食べてきたさまざまな味の遍歴が素晴らしい筆致で描かれています。
例えば、遠くアメリカまでハンバーガー名店を訪ねる旅は、日本のマックから始まっていました。
思い起こせば二十歳のとき、銀座四丁目の「マクドナルド」一号店の開店初日に並んで買った八十円のハンバーガーから、ネバダ州ボールダーシティのこの店まで、いかに長い旅路であったことか
「ハンバーガー・クライシス」
また、日本の洋食について考察していく文章は、なるほどとうなづきながら読む方も多いのではないでしょうか。
「日本の洋食」の最高傑作と言えば、やはりトンカツであろう。(中略)必ず味噌汁、漬物が付き、ご飯も飯茶碗に盛られて当然のごとく箸で食するのであるから、むしろ分類上はすでに和食とするべきであろうか
「にっぽんの洋食」
そして、アメリカ南部の都市に滞在した時に、どこのレストランにもあの大手メーカーの赤いキャップのついた醤油ボトルを発見した浅田さん。日本人として感動しきりだったそうです。
あんまり嬉しいので食事のたびに観察していたところ、ドレスアップした紳士淑女が当然のように醤油をステーキにかける。マッチョな労働者もハンバーガーを開いて、カラシ、ケチャップ、そして醤油なのである
「My Old Soy Sauce」
ページをめくれば旅と美味しい驚きに満ちたこの一冊。
ぜひ旅路のお供にいかがでしょうか。
──『見果てぬ花』担当者より