◎編集者コラム◎ 『ミニシアターの六人』小野寺史宜

◎編集者コラム◎

『ミニシアターの六人』小野寺史宜


『ミニシアターの六人』写真

 90年代の後半、ビデオの業界誌の編集部にいた。全国に無数のレンタルビデオ店があった頃で、その雑誌はアダルトもレーザーカラオケも含め、毎月発売されるすべての作品を掲載し、店の人が仕入れの参考にするためのものだった。

 社会人一年目、就職氷河期の中なんとか出版社に潜り込んだものの、先輩たちはどんどん辞め将来には不安しかなかった。転職してきた隣席のひとが、「これからの人がいる職場ではない。友人が編集長をしている雑誌がある」と紹介してくれた職場だった。

 新人の私の主な仕事は、スペックの管理だった。発売日やタイトル、簡単なあらすじ、品番、価格などを担当者が書いたもの(手書き!)をオペレーターさんが入力する。出力したものの校正とか修正をした。入力をすることもあった。

 ミニシアターに出会ったのはその頃だった。大きなスクリーンで観るハリウッド大作はもちろん面白かったけれど、駅前にメジャー作品しかかからない映画館があるだけの街で学生時代を過ごした私にとって、映画館ごとにラインナップに特色があり、今まで観てこなかった作品に出会えるミニシアターはとても魅力的な場所だった。

 時々、巻頭特集の担当が回ってきた。当時のファイルを開いたら、私が最初に作った記事は「日本全国主要ミニシアターガイド」だった。『トレインスポッティング』がめちゃくちゃ流行った年だったけれど、記事には「『キッズ・リターン』『ファーゴ』『イル・ポスティーノ』『ユージュアル・サスペクツ』など作品の質に見合ったロングラン・ヒット作が増え」それは「よい傾向」と書かれていた(もちろんライターさんが書いてる)。

ミニシアターの六人』は、その少し前、1995年に発表された『夜、街の隙間』という映画にまつわる物語。現実とフィクションをごちゃ混ぜに語るのは良くないかもしれないけれど、小説の中の『夜、街の隙間』は、確かにその90年代半ばのミニシアター上映作品の気配を濃厚に漂わせていてワクワクする。脚本家の向井康介さんが、「解説」でそのことを詳細に綴ってくださっているのでこちらもぜひ。

 寡作だった監督が亡くなり、その2年後に21年の時を経て行われた上映。その最終日の前日、偶然映画館に居合わせたのは世代の異なる六人。90年代のミニシアターの静かな熱気を知るひとにも、当時たまたま観ただけのひとにも、雨宿りのつもりで映画館に入ったひとにも、そしてまだスクリーンに座る前のひとにも、それぞれの奇跡が待っている。

 シネコンが増え、レンタルビデオ店はピーク時(1995年だそう)の1/5に減少しているそうだ。その中でミニシアターは、一度閉館したもののクラウドファンディングで復活を遂げたり、小さいけれど魅力的な劇場が各地に作られていたりと元気なニュースも多い。

 この小説をきっかけに、(ミニシアターに限らず)映画館に足を運ぶひとが増えるといいなと思っている。

──『ミニシアターの六人』担当者より

ミニシアターの六人
『ミニシアターの六人』
小野寺史宜
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