ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第120回

「ハクマン」第120回
人間が死ぬ作品が見たい。
だがフィクションであっても
推しが死ぬのは辛い。

U-NEXTの1か月無料お試しを期間内に解約をし忘れたため、無事2000円以上課金することとなった。
おそらくサブスクの主な収入源はこういった「自分を無料期間だけ楽しんで解約できるクレバーだと思い込んで解約を忘れるクルクルパー」である。
真のクレバーは自分は解約を忘れるクルパーだからと自覚し、最初から入らない人間だ。

だが、サブスクにとってさらに優良顧客なのは、入ったことすら忘れて会費を払い続ける篤志家、そして解約しないまま死んで遺産を寄付し続けてくれる慈善事業家である。

私はマヌケだが、慈善の心は持ってないので、害悪顧客としてすたみな太郎に来た北斗家の如く、配信を見まくって元を取ってやろうと思っている。

そんなわけで、相変わらずアニメなどを見続けている。
前から気になっていたものや、人が勧めるものを手あたり次第見るというビッチ視聴をしているのだが、そんなヤリマンにも「生理的に無理です」と敬語でお断りするされる御仁がいるように、私にも無理なジャンルはある。

その代表が「おキャット様が死ぬ作品」であり、どんなに名作でもおキャット様が死ぬ時点で「お前が代わりに死ね!」と言って暴れ出すので、私に作品を勧める際はおキャットイズノーダイでお願いしたい。

逆に言えば「人間は2、3人死んでほしい」ということだ。
全く「逆に」ではなく「猫に死んでほしくない」の対義語を答えよ、という問題に「人間は死ね」と書いても、採点者が猫原理主義過激派でない限り加点はない。

しかし「わざわざフィクションでまで、おキャット様が亡くなるという現実を見たくない」ということは「せっかくなら非現実なものを見たい」ということでもある。

ただ求める非現実が「現実にはないハッピーでハートフルな物語」なのか「人間が現実ではありえない方法でむごたらしく死ぬ様」なのかが人によって違うというだけである。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

連載第11回 「映像と小説のあいだ」 春日太一
萩原ゆか「よう、サボロー」第25回