ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第121回

「ハクマン」第121回
悲報なのか吉報なのか。
何事も受け取り手次第な
ところがある。

もし人々が焦燥ではなく余裕を求めているなら「吉報!今年まだ3日ある!」というお報せの方が主流になるはずだ「売れ線の方が残るし増える」というのは自然の摂理である。

実際、記事の見出しもポジティブなものよりネガティブな物の方がアクセス数が伸びると言われているが、そもそも「世の中暗いニュースばかりだ」と感じるのも、自分の目が暗い情報ばかりをサーチし「那須どうぶつ王国にコツメカワウソの赤ちゃん爆誕」などの光強めニュースに対しては網膜が耐えきれず目を閉じてしまっているだけなのかもしれない。

それに、ニュースを悲報と感じるか吉報と感じるかは受け取り手次第なところがある。
「いい意味で増税」などないように、悲報でしかない悲報もあるが、今年の残りを「あと1か月しかない」と取るか「あと1か月もあるから3日ほど虚空を見つめても大丈夫だし、最悪未来の自分が何とかしてくれる」とポジティブに捉えるかは自分次第だ。

ここ数年の間、漫画家の間でネガに取るかポジに取るかで別れたのは「AI」の躍進ではないかと思う。

AI自体昔から「我々の仕事がAIで楽になる」ではなく何故か「俺たちの仕事を奪う脅威」として扱われることが多かったが、AIによる画像生成が取沙汰されたことりより「AIが漫画家やイラストレーターの奪う」と言われるようになった。

実際奪われたかというと、私は未だに手動で漫画を描いており、エゴサで「本当に絵が下手」という意見を見つけるたびに「AIは本当に俺の仕事を奪う気があるのか」と憤慨しているのが現状だ。

画業界だけではなく、他の業界でも「AIに仕事を奪われたか」というと「思ったほど奪われていない」という回答が多いらしい。

だが、技術というのはいつか取って変わられるものだ。
ミクシィをやっていた時、自分はずっとこれをコミュニケーションの要とし、一生サンシャイン牧場をやると思っていたが、そんなことはなかったし、Xすらいつか離れ、新しいツールを使う時が来るのかもしれない。

それと同じように、奪うのに時間がかかっているだけで、いつか我々の仕事はAIに奪われるかもしれないし、そうなったら困るという気持ちもある。

しかし「新しいものに危機感を覚え反発する」というのは老特有のネガティブな反応であり、若いクリエイターほど、AIにより表現の幅が広がり、AIで時短できた分クリエイティブな部分に時間をかけられるなど、むしろAIの登場をポジティブに捉えているのかもしれない。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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