ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第126回

「ハクマン」第126回
インボイス制度のせいで
事務処理がKM(クソ面倒)な
確定申告シーズンがやってきた。

脱税していた側に「お前らちゃんと納税しろ」という法律を作られた、というのは、愛人を7人抱えパパ活にも意欲的な人間にキャバクラ通いを鬼詰めされたかのような理不尽である。 

ちなみに「個人事業主の廃業者続出」がインボイス制度最大の危惧とされていたが、農業関係の仕事をしている夫にインボイス廃業は出ているのか聞いたところ、知る限りインボイス廃業は出ていないらしい。
ただしこれは農業が「農協や市場がインボイスを出せない農家と取引をやめたら普通に餓死発生」という世界観なため、当面企業側が消費税分を被っているだけで、業種によってはインボイスの有無で契約を切られて廃業を余儀なくされた個人事業主もいるのかもしれない。

出版業界も今のところ、インボイスが出せない作家には仕事を発注しない、または連載を打ち切る、などという話は出ていない。

何年やっても芽が出ない作家に仕事が来なくなるのは制度のせいではなく、ただの自然の摂理だが、この制度は「これから稼ぐかもしれない新人」まで干す恐れがあるものだ。

つまり「才能ある新人作家を潰してくれるかもしれない制度」であり、今まで散々「誰も得をしていない」と言ってきたが、他でもない私が得をしている制度と言える。
青い鳥はやはり近くにいるのだ。

しかし、当然新しい才能が潰れると業界自体が衰退縮小して、私ごときに仕事を発注する余裕がなくなり、結局餓死なのである。

だが、人間は余裕がないと「みんなで満腹になろう」ではなく「全員で餓死しよう」という発想になってしまうものだ。
出版業界が衰退することで、自分も干されるが、編集者も失職するなら「それでもいいか」と思う自分もいる。

「ハクマン」第126回

(つづく)
次回更新予定日 2024-3-13

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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