ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第130回

「ハクマン」第130回
漫画新刊の発売が決定した。
センスが終わっている編集者と、
応援してくれた読者のおかげである。

そう言えば、先日推し活に関する記事がバズっており、その中で「自分は推しであってもつまらないと思ったら『泣くほどつまらなかった』とSNSなどに忌憚ない感想を書くのでそれが推しにも嫌われたのだろう」という分析があった。

推しのすることは全肯定するか、それともこれは違うと感じたら、それをはっきり言うかは人によるだろうし、どっちの推し方が正しいというわけでもなく、自分のSNSに「推しがつまらなすぎて3日下痢が止まらない」と書き込むのも自由だが、「自分は愛ゆえに言っているのだから、推しもこれを愛として受け取るべき」と言い出すと、厳しくなってくる。

実際、批判を愛として受け取るか、それを見て腹を壊すので見ないようにするかは人によるし、それは受け取る側の自由である。

私も1日62時間Xに貼りつき、内59時間をエゴサに費やしているのにごくたまに私の著作を読んで嘔吐している人を見かけるが、それに対し「お前のつぶやきのせいでこっちは胃腸炎になった今すぐやめろ」と挑みかかったり、ブロックをするということはないが、あまりにも口汚く批判されている時はミュートしたりはする。

しかし、意見や感想に関しては割と真に受ける方である。
何せこちらは1話先のことすら具体的には考えてないので、何が何なのか自分でもわからないままキャラクターに「なんだって!?」的なことを大ゴマで叫ばせて「次回続く」にしてしまうこともある。

それが掲載された後、エゴサをすると、それに対する意見や、先の展開を予想する感想があったりするので、それを参考、というかそのまま採用してしまうこともある。

今回発売する作品の8巻目は、そんな読者の意見に左右されすぎて、50回ぐらい展開が変わった集大成でもあるので、その臨場感も楽しんでいただければと思う。

最近他の作家にも読者の批判をどう受け止めているかを聞いているが、その対応はやはりまちまちである。

だが、一番傷つく批判は「ブス」なのではないか、という意見は一致した。
確かに、漫画家として作品を世に出す以上、作品が批判される覚悟はある程度できているため、それより全くノーガードな脇腹を刺される方がダメージがでかい、というのはある。

そしてそれ以上に困るのが「こういうものを描いている奴ほど美形だったりする」という謎の方程式だ。

推しを推す姿勢は様々であり、どれが正しいというわけではない、ただそれが全く関係ないところでのルッキズムは人を殺すということだけは確かだ。

ハクマン第130回

(つづく)
次回更新予定日 2024-5-8

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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