採れたて本!【海外ミステリ#16】

採れたて本!【海外ミステリ】

 張國立『炒飯狙撃手』(ハーパーBOOKS)は、台湾発の謀略スリラーである。タイトルを見た時には、ちょっと脱力させられたが、読んでみると、これが実に引き込まれる、良いサスペンスなのだ。

 イタリアの小さな炒飯店で腕を振るうしょうがいは、実は台湾の潜伏工作員であり、名うての狙撃手である。彼はある日、ローマのトレヴィの泉において、標的である東洋人を射殺するが、根城に戻ったところを何者かに襲撃され、命を狙われることになる。以後、小艾は各地を転々としながら、自分が追われる理由を探っていく。一方、台湾においては、定年退職を十二日後に控えた刑事・ろうが、台湾で発生した陸海軍士官の連続不審死を追っていた。二つの事件は、どのように繋がっているのか?

 各章の冒頭には、その章の舞台となる場所の地図が載せられている(クライマックスにあたる第三部にはない)。その趣向そのものが嬉しいが、ほとんど台湾に留まり続ける老伍とは異なり、小艾はヨーロッパを転々とし、逃亡劇を展開する。まさしく、世界を股に掛けた作品になっているのだ。作中に登場する小説も様々な国の作品で、ローレンス・ブロック、東野圭吾などの名前も登場する。小艾がイタリアの犯罪小説家であるドナート・カッリージを読んでいるという序盤の描写もにやりとさせられる(日本でも『六人目の少女』『ローマで消えた女たち』が邦訳されている。『炒飯狙撃手』作中の描写を読むと、『六人目の少女』の中盤を読んでいるようだ。自身は殺し屋でありながら、小説の中で、悲惨な死を遂げた孤児院の少年に思いを馳せてしまう小艾の心理描写が、さりげなく、巧い)。道具立てからスケールまで、まさしく、世界水準のエンターテインメントだ。

 二つの視点を行き来しながら、巨大な陰謀の存在に少しずつ近付いていく過程が見事だし、クライマックスの果てに訪れる、優しいラストシーンがまたたまらない。

 タイトルにもなっている通り、小艾は炒飯作りが得意であり、第一部7章では、その腕前を披露している。チャーシューが見つからず、かといって生ハムは使えないので、サラミを使って炒飯を作っている、という描写なのだが、思わずよだれが出てしまう。塩気も胡椒も絶妙に効いていそうだ。かと思えば、この炒飯作りの解説と全く同じテンションで、狙撃の極意などを地の文で語り始めたりするため、思わずクスッと笑わされてしまう。

 訳者あとがきによれば、台湾では二〇二四年に本作の続篇の刊行が予定されているようだ。これほど綺麗に閉じた物語を、どう続けるつもりなのかと思わされるが、これだけ魅力的なキャラクターを擁しているのだから心配は無用だろう。

炒飯狙撃手

『炒飯狙撃手』
張 國立 訳/玉田 誠
ハーパーBOOKS

評者=阿津川辰海 

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