ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第131回

「ハクマン」第131回GW明けは五月病に罹患する者と
辞める新入社員が一番
多い時期といわれている。

そもそも、私にGWが関係あるのかというと、ない。

ただ、GW中に仕事をすること前提のスケジュールを出された場合はあたかも社会に出てから頑固一徹会社員一筋であるかのように、顔面に「生涯一固定給」というタトゥーを入れてでも相手の非常識を糾弾しなければ損だと思っている。

しかし、カレンダー上は平日なのだが、ここで有給を使って10連休などにもって行く会社員もいるらしい。

10日も休んでしまったら、5月7日に再び会社に行くという選択肢が消える気がするのだが、何故か日本はそれでも「行く」という、ないはずの選択肢を選ぶ人間の方が多数派らしい。

つまり「奇」とは所詮多数決で決まるあやふやな概念ということだ。

もし外にいる9割の人間が全裸で雄たけびを挙げあらゆるものに体当たりしながら移動しているとしたら、服を着てまっすぐ静かに歩いている人間の方が、不審者として全裸の警察官に体当たりされる「職質」を受けることになるのだ。

会社も、何故かGW明けに出社という奇行をする人間の方が多いため、生物的には正しい行動をしている非出社勢の方が異端とされ、わざわざXに「悲報 弊社の新人出社せず!」などと書かれてしまうのだ。

そんなことを書く前に、10日も休んでまだ会社に来る気になっている自分の異常性を顧みてほしい。

実際GW明けは五月病に罹患する者が多く、新入社員が一番辞める時期とも言われている。

しかし、今年は4月の頭に「退職代行」というワードがトレンドに挙がるなど、辞める人間はもっと早くに辞めているようである。

これは、今どきの新卒はガッツがないという話ではなく、見限りが早いせいだと思われる。

現在、新卒に限っては売り手市場らしく、就職先に困らないことから、入った会社がブラックだったり自分に合わないと分かったりすると、割とすぐ辞めて次に行ってしまうらしい。

  

退職代行が流行っているのも、最近の若者は辞意すら自分の口で言えないというわけではなく、退職という全く発展性のない活動に時間や精神力を使いたくないので、コスパ重視で外注を選んでいるだけなのかもしれない。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

乗代雄介〈風はどこから〉第14回
◎編集者コラム◎ 『増補版 九十八歳。戦いやまず日は暮れず』佐藤愛子