ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第131回

「ハクマン」第131回GW明けは五月病に罹患する者と
辞める新入社員が一番
多い時期といわれている。

確かに、1か月も所属していない会社の出会って20日未満の上司に「とりあえず3か月がんばってみよう」という説得を3時間受けるのは、すでに意識が次へ向かっている人間にとってあまりにもダルい。

退職代行に対しては賛否あり、新卒で入った会社を「お母さん」という禁じ手で辞めた自分としては、ズルいと思わなくもないが、平素「便利な物は使えば良い、食器洗い機を買い渋るモラハラ野郎は川へ洗濯へ行く時代からやり直して来い」と言っている人間が退職代行を怠けだというわけにもいかない。

新卒にとっては良い時代と言えるが、企業側にとっては優秀な若手確保が困難な状況である。

某いなばのように、新入社員に廃墟に強制入居などという試し行動をするとすぐに逃げられる時代なのだ。

  

先日、東京で某S学館の担当に会ったのだが、会うなり「さっきまで熱海に1泊旅行しており、その足で来た」という破天荒なことを言い出した。

ただ個人的な旅行ではなく部署ごとの「社員旅行」だったそうで、その際の楽しいレクリエーションや、新入社員含む参加者たちが肩を組んでカラオケに興じる姿など、50年前の映像と言っても通じる、歴史的資料を見せてもらった。

この社員旅行の良し悪しについて個人的見解を述べると、普通に載らなくなるので言及は控える。

私のようなコミュ症にとって「組織に入ってすぐの旅行」は、孤立スピードが3倍速になるクソイベなのだが、編集者になるようなコミュ強にとっては、これがなきゃ始まらないぐらいの神イベなのかもしれない。

しかし、社員旅行が滅びつつある文化であることは確かであり、令和を生きる新卒たちがこれをどう受け取ったかは未知数である。

私が新卒で入った会社も、その前年まで「新入社員を1か月寺で修行させる」という行事があったらしい。それを私の入社時もやっていてくれたら、逆にお母さんを召喚することなく、その場で辞められただろう。

こういったわが社の伝統という名の「洗礼」は、若手確保が困難な今はやめておいた方がいいと思うが、若手側からすれば逆に判断スピードが上がっていいのかもしれない。

「ハクマン」第131回

(つづく)
次回更新予定日 2024-5-22

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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◎編集者コラム◎ 『増補版 九十八歳。戦いやまず日は暮れず』佐藤愛子