ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第18回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第18回

私は、作者が死んでも続く、
サザエさんやドラえもん方式に憧れている。
だが、新しい話を考えるのは苦痛だ。

ともかく新しいインプットがなければ、アウトプットされるものもいつも同じになり、最終的に尻からウンコしか出なくなる。

よって、タピオカを資金源にしているヤクザのように常に新しくて流行っているものを取り入れていく必要がある。

しかし私には「売れている漫画を読むと体調を崩す」という特徴がある。
それも、皮膚がはがれる等の物理的崩れ方だ。

大体「面白さ」を「羨ましさ」が凌駕してしまうので、漫画のアイディアより「作者の家の壁紙がめくれないだろうか」などの「売れてる作家に起こってほしいプチ不幸案」の方が次々に生まれてしまう。

ある意味インスピレーションを刺激されているのだが、誰もそんな話は読みたくないだろう。

また売れてる漫画の輝きで網膜が焼けないように、10メートルぐらい離れて読むため、面白さを分析するとことなどとてもできない。
よって、売れている作品を表層的にパクり、中途半端に流行りに乗っかろうとしているという、一番オタクが激怒するような物が出来てしまったりするのだ。

流行りに乗るのは簡単だが、流行っているからこそ、そこから突出するための斬新さが必要となってくる。
やはり戦略的に売れている作品を作ろうとしても、分析力だけではダメで、応用力も必要なのである。

しかも「新しい物をインプットする」という作業も年を取ると面倒くさくなる。
よって、ついつい同じものを繰り返し見て、同じようなものを作り出してしまいがちになるのだ。

騎士団長になったり、逆に転生したら島耕作だったりと、長期連載かつ作者も高齢になりつつあるのに、常に新しい物を取り入れ続けているベテラン作家は本当にすごいと思う。

わかっているのだが、今日も聞き慣れた音楽を聞き、見慣れた「映画デビルマン」を見てしまったりする。

新しいものを次から次へと取り入れるのも良いが、映画デビルマンを見続けることで得られる境地もあると信じている。
 

ハクマン

(つづく)
次記事

前記事

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◇長編小説◇飯嶋和一「北斗の星紋」第7回 前編
河谷禎昌『最後の頭取 北海道拓殖銀行破綻20年後の真実』/銀行業界を救うため、犠牲になった男のドキュメンタリー