河谷禎昌『最後の頭取 北海道拓殖銀行破綻20年後の真実』/銀行業界を救うため、犠牲になった男のドキュメンタリー
20年ほど前に経営破たんした“北海道拓殖銀行”の最後の頭取であり、特別背任罪で実刑判決を受けた河谷禎昌氏。その波乱に満ちた人生を赤裸々に描くドキュメンタリーを紹介します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
森永卓郎【経済アナリスト】
最後の頭取 北海道拓殖銀行破綻20年後の真実
河谷禎昌 著
ダイヤモンド社
1800円+税
装丁/大場君人
転換期の犠牲者となった男を描いた「平成」の歴史資料
北海道拓殖銀行の経営破たんから20年余り。いまから振り返ると、この事件が、いまに至る銀行再編と不良債権処理の幕開けだった。
本書は、拓銀の最後の頭取で、特別背任で逮捕され、服役もした河谷禎昌氏への膨大なインタビューを朝日新聞の記者が再構成したものだ。きちんと裏付けを取り、関連文献も丹念に調べたようで、矛盾のない、読みやすい構成になっている。私は、半日で読破した。
河谷元頭取の主張は、彼が逮捕され、有罪になったのは、銀行に巨大な公的資金を投入するためには、誰かを刑務所に入れなければ、国民感情がおさまらないという判断の下で、司法が国策で動いたというものだ。本書では、そのことをていねいに論証している。メディアが作り上げた「銀行悪者論」の下で、銀行業界を救うためには悪者がどうしても必要だった。そこで、河谷元頭取がスケープゴートにされたのだ。確かに、当時から、「拓銀なら、つぶしても影響は道内中心で収まる」という声が私の耳にも入っていた。
ただ、本書で私が一番大きな関心を持ったのは、破たんに先立つバブル発生の要因だ。バブル期には、日銀の窓口指導で、各行に前期比3割増といった大きな貸出枠が与えられたと河谷元頭取は証言する。それが事実上のノルマとなり、円高不況で融資先に窮した銀行が、不動産関連融資に頼らざるを得なくなった。拓銀がソフィアグループやカブトデコムへの融資にのめり込んだのも、そうした事情のためだった。
河谷元頭取は、自身の責任を認めたうえで、拓銀破たんの責任を負うべき元同僚の名前を複数挙げている。しかし、彼等は、いわば実行犯であって、バブルを発生させたのも、その後銀行を次々に破たんさせたのも、主犯はやはり日銀だったのではないだろうか。
いずれにせよ、本書は、平成を振り返る時に欠くことのできない歴史資料であると同時に、転換期の犠牲者となった男の波瀾万丈人生を描く、読みものとしても面白い、秀逸なドキュメンタリーだ。
(週刊ポスト 2019年3.15号より)
初出:P+D MAGAZINE(2019/08/26)