ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第22回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第22回

新しいネタを思いつきたければ、
新しい物をインプットするしかない。
もしくはネタという名の事件を起こすしかないのだ。

漫画家の経費というのは曖昧だ、という話を前にしたかと思う。

普通の会社だったら、DB(ドスケベブック)やIV(いやらしビデオ)を経費として申請したら、即本社から呼び出しだろう。
しかし、漫画というのは当然エロがテーマの作品もある。

むしろ、そういうものをノー資料で描かれたら「俺たちの大事なモノはそんな方向に曲がりません」とか「この女性の胸部は下方修正が過ぎるのではないかね?」などということになりエロ漫画としての用途が為せなくなってしまう。

よって、冗談ではなく資料として、そういうものが必要なのだ。

逆に言えば、デリヘル代を経費にするためにデリヘル漫画を描く、という手もある。
「女優を二号にしたのではない、二号を女優にしたのだ」というような、大物のなせる業であり「デリヘルが先か、デリヘル漫画が先か」という哲学にも通じる。

しかし、それ以上に漫画家にとって曖昧なのが「仕事している時間」である。
漫画というのは絵を描く時間もあるが、当然「話を考える時間」というのもある。

 

作家が構想している姿というと、みなさんは膝の上下にギザギザの石を置いて、頭頂部に火のついたろうそくを刺している姿を想像すると思う。

実はそういう考え方をしている作家は全体の6割程度である。
机や虚空、自分にしか見えない敵にむかって唸っている、というのは、いわば自分の頭の中だけで考えている状態だ。

よって、自分の頭の中に入っている以上のことは思いつかない、つまり大体「前に描いたことがある話」が思いつくだけなのだ。
前に描いた、ということを気付かれない方にワンチャンかけてそのまま出すという方法もある。

正直、担当はあまり気づかない。
しかし、読者の方は、担当はおろか、作者すらすっかり忘れている話やキャラを覚えていたりするので、できればあまりやらない方が良い。

しかし、鳥山明がブロリーの存在を忘れる世界である。作家が自分の描いたことを忘れるという現象は実はよくある。

次記事

前記事

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

川越宗一さん『熱源』
◇長編小説◇飯嶋和一「北斗の星紋」第9回 前編