ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第24回
出版社主催の漫画家の集いに行ったことがない。
そろそろ、出版社から、謝恩会という名の忘年会の報せが来るころだ。
小学館からも、毎年あの厚紙を二つ折りしたような立派な招待状が厚い封筒に入って届く。
どうやら厚ければ俺たちはありがたがると思われているようだ。
漫画家になって10年たったが、私は忘年会などの、出版社主催の漫画家の集いに行ったことがない。
まず、漫画家というのは洞窟に生息する生物の目が退化しているように「曜日」という概念を失っている。
よって一般企業であれば、忘年会は金曜とか土曜とか週末に設定するところを出版社は「水曜」とかド平日に持ってくるのである。
そこで「そんなの行けるはずないだろ」と言い出さないのが漫画家なのだ。
しかし、私は地方住みの上に、10年中9年近くは会社員をやっていたため、このようなエクストリーム忘年会に出席することは物理的に不可能だった。
だが、今は御存じの通り無職である。
「わざわざ飛行機で忘年会に行く」という、スープを飲むためにモナコに行くような叶姉妹八艘飛びをやれば行けないことはない。
特に小学館の忘年会は豪華なことで知られており、人気作家が稼いだ金がローストビーフとなって、何の貢献もしていない、むしろ何故呼ばれたのかさえわからない俺たちの貴重なたんぱく源になる日として、あまりにも有名だ。
むしろ、他の作家様の頑張りで開かれた会に、私のような健康診断で「もっと肉と野菜を食え」と言われた栄養失調作家がジップロックを持って馳せ参じない、というのは失礼な気さえする。
しかし、私は今年も行かない。
マジレスすれば飛行機代の方がローストビーフより確実に高いからなのだが、他にも理由はいろいろある。
まず、知り合いが皆無だ。
担当編集ぐらいならいるだろうが、担当も私だけの担当をしているわけではない。
それに担当作家の中では自分が一番優先順位が低いという自信がある。
よって、担当はもっと機嫌をとりたい作家の方に行くはずだ。
それに立食パーティなので編集者には「大御所作家の椅子になりにいく」という大事な仕事もあるはずだ。
あと、男の編集は女大物作家に「抱きあえ」とか命令される役目もあるだろう。ある意味それは見に行く価値がある。