ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第48回

ハクマン48漫画というのは、担当が
「催促し飽きない」
ことで成り立っている

私も、地方にいながらアシスタントを雇うことは可能だろう。
しかし、私が10年以上、内9年会社員と漫画家の両立を続けられた秘訣は、と問われたら「1人でやってたから」と言わざるを得ないのである。

そうでなかったら今頃「仕事をもらえて、みんなが喜んでくれることに感謝している」ということを、病院の壁に彫っていると思う。

これは、普通の会社でも言えることだが、チームで仕事をする場合、チーム全員が仕事全体を把握していなければならず、リーダー1人しか把握していないと、リーダーが倒れた時点でその仕事は崩壊してしまう。
よってリーダーはチーム全員にちゃんと仕事について説明しなければいけないのだが、ダメなリーダーは「自分がわかっているからいい」で進めてしまうのだ。

例えば私がアシスタントに「資料を見ながらここに都庁を描いてくれ」と指示したとする、おそらくアシスタントは本棚か、PCの「背景資料」フォルダから資料を探そうとするだろうが、うちの場合資料は「床」もしくは「新規フォルダ(7)の中の新規フォルダ(14)」の中にある。
しかし私は「資料は床、もしくは新規フォルダ(略)にある」と教えずに自分で、床やフォルダから発掘してアシスタントに渡すのだ。
そもそも自分でもどこにあるかわからないので「教える」ということが出来ないのである。

教えないからアシスタントは永遠に自分で資料を探し出せず、作業が滞り、アシスタントを雇ったのに、仕事効率が上がらず、精神だけが病むという状態になってしまうのだ。

もちろん、アシスタントに悪口をツイッターに書かれるだろうし、少なくともアシスタントがツイッターに俺の悪口を書いているという被害妄想で眠れなくなる。

つまり、チームで仕事をするということが絶望的に向いていないのだ。

それを考えると、どれだけ忙しくても、1人で出来る仕事に就けたという感謝を深く胸にグラインダーで刻み、この原稿を添付し忘れることなく担当に送りたいと思う。

ハクマン第48回

(つづく)

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◇自著を語る◇ 風野真知雄『お龍のいない夜』
福徳秀介さん(ジャルジャル)第1回 インタビュー連載「私の本」vol.11