ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第54回

ハクマン54回バナー書くネタがないので、
最近話題のClubhouseについて
考えてみようと思う。

元々私をClubhouseに招待してくれた人も「読者向けにトークをしてみてはどうか」という善意、もしくは善意に見せかけた純粋な悪意で誘ってくれたのだ。

Clubhouseだけではなく、作家本人が読者に向けて発信するというのはもはや普通のことであり、ユーチューブをやっている漫画家も増えている。

それに対し「そんなことをやっている暇があるなら漫画を描け、そんなことしているから売れないんだ」と言う人がいる。
どこにいるかというと俺の脳内であり、ただの被害妄想だが、そう思われていそうでならない。

しかし、これには大きな誤解がある。ユーチューブとかSNSにかまけているから売れないのではなく、やらなければもっと売れないのである。

そもそも「宣伝」というのは漫画家の仕事ではない。
出版社にも「販売部」という営業みたいな部署があり、販売促進はそこの仕事なはずである。

おそらく何らか本が売れるように尽力してくれているのだと思うが、現在の私にとっては本が発売するたびに、書店から三桁以上のサイン本を受注してきて「早くサイン本のことツイッターで告知してください」と催促してくる存在でしかない。

しかし、販売部が何もしていないというわけではない、おそらく「売れている本、もしくは売れる見込みがある本」の宣伝をしていると思われる。

漫画業界というのは決して景気が良いわけではないのに、作品数だけが増え続けているため、とてもすべての作品に宣伝費をかけることはできないのである。

つまり、宣伝してもらえないのは「売れてないのが悪い」という自己責任に帰結してしまうのだ。
しかしそれだと、売れる見込みがないから宣伝してもらえない、ますます売れない、もっと宣伝してもらえないという餓死ループにしかならない。
よって作家自ら宣伝するしかないのである。

しかし、出版社側に「他の作家みたいにSNSで宣伝してくださいよ」と言われたら「担当編集の体で裂けるチーズを作ってみた!」というタイトルでユーチューバーデビューしてやろうかと思うが、やはり自著の宣伝は作家本人がやるのが一番だし、それが自分のためでもある。

よって、Clubhouseもそれで読者が喜ぶならやぶさかではないと思うのだが、やはり「しゃべる」という部分に問題がある。

ツイッターでも、作品が好きで作者のアカウントをフォローしたが、思想の偏りが激しすぎて作品まで嫌いになったということがあると思うがClubhouseも同様である。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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