ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第58回
マーケティングは、
インフルエンザの仲間ではない。
もちろん、詳しくないからこそ出てくる新鮮な感想が期待できることもあるが、人間というのは興味がないものに対しては語彙が極端に減るため「興味ないんだな」ということが丸わかりになってしまうこともある。
ただしエヴァファンがシンエヴァを見て「良かった」とすらつぶやけなくなっているように、好きすぎても人間の語彙は消滅するので、どのインフルエンサーに何を宣伝させるかは非常に重要である。
いつもハッピーアワーに199円の巨大ハイボールの画像しか投稿しないようなアカウントが突然オシャレ映画を褒めるツイートをした、という不自然さからステマがバレたという話もある。
嘘でなくても、あまりにも本人のイメージからかけ離れたものをPRさせると「嘘くささ」が際立ってしまうのだ。
また「忖度を感じさせないPR」をさせたいなら逆に「忖度しないことがウリ」な人には依頼しない方が良い気がする。
過激な作風であればあるほど「PR広告」という、ある程度無難さが求められる物を書かせた時のギャップがデカくなってしまうのだ。
決してデキの悪いPRでなくても、いつもの過激な作風を好んでいるファンからすると「極端につまらないものを見せられた」という気分になってしまうのである。
過激さが売りの人に過激なままの宣伝をさせ「企業広告がここまでやるとは天晴」という作戦もあるが、勢い余って、本能寺(企業)と一緒に信長(作家)が燃えて死ぬという、1582年の風景が令和に再現されてしまうことも多い。
ギリギリを攻めるというのはリスクが高いので、依頼をするならPRをやらせてもファンがあまり違和感を感じないインフルエンサーを起用した方が良いような気がする。
また漫画家にどれだけ「忖度なしで描いてくれ」と言っても、なかなか描いて来ないと思う。
何故なら「忖度なし」を真に受けてネームを提出し「忖度しなさすぎ」と言われて描き直しになったら二度手間もいい所だからだ。
出来るだけ描き直しはしたくないのでよほど純粋な作家でなければ最初から「通るライン」を見極めて描いて来ると思う。
どうしても本音で描いて欲しいという場合はネームを提出させる前に「何を描いて来ても通す」と血判状を交わすか、「使ってはいけない言葉一覧」を渡してほしい。
後で「これはちょっと」と言い出すくせに「何でも好きに描いちゃってください」と言うのは、「夕飯は何でも良い」と言っておきながら、シュールストレミングを出したら「常識で考えろ」と言い出す奴と同じである。
(つづく)