ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第61回

ハクマン第61回「必殺P」を一番稼いだ、
私の漫画家人生初代担当が
ついに異動になってしまった。

初代ということは、私を漫画家としてデビューさせてくれたのはこの担当だし、ちなみにコラムの連載をはじめてさせてくれたのもこの担当である。

もしかしたら、早々に漫画家としてダメであることに気づき「コラムワンチャン」と思ったのかもしれないが、まさかそっちも「イマイチ」とは思わなかっただろう。

つまり作家としては「恩人」と言っていい人であり、そんな相手に対しことあるごとに殺意を向けるなんてなんて恩知らずなのか、と思うかもしれない。

もちろん私とて、その点は非常に感謝している、だが残念なことに世の中には「相殺」という概念があるのだ。
ちなみに、前回書いた「メールCC誤爆事件」の主犯はこの担当である、この時点でもうプラマイゼロぐらいになってしまっているのだが、多分担当はこのことを覚えていないと思う。
何故なら担当はデビューした時から私より20歳ぐらい年上であった。よって当時から「言った言わない」が多く、最初の方は「忘年会の報せを聞いてない」という今思えばカロリーと地球上の酸素の無駄としか思えないことでも揉めていた。

しかし、忘年会に誘われたところでどうせ行かないのだ。私も「行かない癖に誘われてないと怒る」という相当な厄介であった。

だが、当時20代だった私もすでに40近いため、徐々に物事に対する記憶が曖昧になってきてしまい「聞いてないけどもしかしたら忘れているだけかもしれない」ということで、言った言わないの揉め事はあまり起こらなくなってきた。

もしかしたら「時間が解決する」というのは「お互い恍惚の人になってしまい、何で怒っていたのかも忘れるし、そもそも怒ったら尿が漏れるから無理」という意味なのかもしれない。

それに私は、常に「怒られる側」の人間であった。
何せ「いつもこっちが間違っている」のだから仕方がない。そういう意味では「担当」というのは、私にとって生まれてはじめてであった、こっちが怒って良い人種である。

そんなわけで、担当が何かやると「逆に嬉しいまである」ようになってきてしまい、担当が何かやらかすと、杯を床に叩きつけて「出陣じゃ!」と城の廊下をダッシュする好戦的な殿状態になってしまった。

しかし、怒りにも「慣れ」というものがあり、もうどのレベルなら怒っていいのかわからなくなってきてしまうのだ。

ちなみに去年から今年にかけて「原稿料が3か月振り込まれない」ということがあった。
コラム1本の原稿料ぐらいならまとめて払ってくれればそれで良いが「24ページの漫画3か月分」である。
これは漫画家や関係者の人ならわかると思うが、結構な額であり、生活が崩壊しかねない。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『汚れなき子』著/ロミー・ハウスマン 訳/長田紫乃
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