ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第69回

ハクマン第69回「今日の仕事は楽しみですか。」
品川駅に怪文書がディスプレイされ
爆発炎上したらしい

昨日、品川駅に「今日の仕事は楽しみですか。」という文言が等間隔で大量にディスプレイされるという事件が話題になっていた。

これは森永グリコ以来の怪文書事件だ、警察は死者が出る前に犯人の特定を急ぐべきであり、今度こそ迷宮入りは許されない。

そう思っていたのだが、この文書はどうやら「犯罪」ではなく一般企業の「広告」だったようで、品川駅が許可したものだったらしい。

これでは「俺の生き様とくと見とけや!」といって「働く人への応援メッセージ広告」をさらに逃げ場のない電車内に掲載し爆発炎上した阪急電鉄の雄姿が浮かばれない。

もし、阪急の兄いに憧れて、兄貴よりでかく燃え、兄貴より早く撤収されるのを目標に頑張ってきたと言うなら阪急兄貴も「お前、でかくなりやがって」と男泣きである。
だがそうではなく、京が一見る人の共感を集めようとしてやったなら「ぼうや一体何を教わってきたの」と百恵ネキもお冠である。

阪急品川の炎上を見るに「仕事」というのはジョイではなく、多くの人間が生活のために嫌々やっている、というのは周知の事実だが、楽しんでやっているという人間がいるのも確かである。
金のために嫌々勢からすると、仕事楽しい勢は瞬時に防犯ブザーが唸りをあげ、催涙スプレーが火を噴くレベルの変態なのだが、もちろんマイノリティというだけで変態ではなく、そういうタイプが肩身の狭い思いをして「仕事楽しんでるマウンティング」などと言われるのもおかしい。

つまり「仕事のやりがい」というのは、政治、宗教、野球に並ぶ「ケンカになりがちな話題」になりつつあるのだ。
むしろ野球でケンカしている人の方が少なくなっている気がするので、そろそろ次元の声優のように勇退かつ交代した方がいいんじゃないかと思う。

結局、その広告は「仕事に追いつめられ電車のホームであと一歩踏み込めない人にケツ相撲をかますことになりかねない」と、本当に「死者が出る」という理由で1日で掲載終了が決定したようだ。
やはりこれは森永グリコの再来だったのかもしれない。

そもそも、仕事というのは「労働」と「賃金」の取引であり、この両者さえあれば成り立つものだった。
しかし、なまじ生活が豊かになってしまったことにより「楽しみ」が3Pを持ち掛けてきたあたりから話がややこしくなってきた。

そもそも楽しみは「ローション」みたいなもので、あればあったに越したことはないが、なくても仕事が成立しないわけではない、という程度のものだった。

それがいつしか、棒や穴レベルに「アタイがいなければはじまらないっしょ」と言い出したのが地獄の始まりである。

 
次回更新予定日
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『ホープ・ネバー・ダイ』アンドリュー・シェーファー 訳/加藤輝美
◎編集者コラム◎ 『クソみたいな理由で無人島に遭難したら人生が変わった件』すずの木くろ