ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第69回

ハクマン第69回「今日の仕事は楽しみですか。」
品川駅に怪文書がディスプレイされ
爆発炎上したらしい

ちなみに漫画家の仕事は楽しいのかというと、個人によると思う。
未だに漫画を描くこと自体が楽しくてたまらんという、ブザーとスプレーがアップを始めるタイプもいれば、楽しくはないが生活のためにやっている、という大半の労働者と大差ない考えでやっている人もいる。

私個人も楽しくないと言ったらウソになるが、楽しいと言っても裁判なしで地獄に行くことになる。
ただ「1ミリも楽しい部分がない」という仕事が多い中で、一瞬でも楽しくなる可能性がある分漫画家という職業は恵まれているとは思うが、その「恵まれ」分を隙あらば賃金から差し引こうとされがちなのも漫画家である。

ちなみに無駄なローションがなく、労働と賃金のタイマンな仕事であっても、そのパワーバランスが著しく偏っている場合は問題である。

プレイであれば「女王様」と「奴隷」のようにパワーバランスを崩壊させることによりグっと趣がでる場合もあるが仕事の場合はそうではない。
もちろん「賃金」の方が強くて「労働」が弱いというなら問題はないが、大体「労働」の方が女王様なのである。
つまり「労働」の苛酷さに対し「賃金」が全く見合っていない仕事はダメだし、さらにその差を「やりがい」で埋めようとしてくる経営者はさらに問題である。

漫画というのは、アシスタントを何人も雇いハイクオリティな作画を維持している人と、余白が多すぎてデザイナーが枠外に模様を入れるなどしてやり過ごしている漫画を1人で描いている作家とで、ページあたりの原稿料が大差あるわけではないのだ。
つまり労働に対して賃金が見合ってない状態の作家も多いのである。

私は、作画がすごい漫画を見るとまず「こんなのを描きつづけて嫌にならないのだろうか」と思うのだが、実際に「嫌になってやめた」という人が結構いるので「やっぱり嫌だったのか」と安心した。
ただし、漫画の場合はヒットという形で労働を遥かに超える収入を得られる可能性もあるので、一時期の対価に合わない労働はそのための投資といえなくもない。

ただし作家が自発的にそうするのは良いが、依頼する側が「原稿料は出ないが宣伝になる」などという仕事は将来のための投資搾取である。

ともかく、仕事は基本的に労働と賃金があればよく、「楽しんでやる」などの特殊プレイスタイルについては本人が選択することであり、他人が「楽しんでやれ」という物ではない。

(つづく)

 
次回更新予定日
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『ホープ・ネバー・ダイ』アンドリュー・シェーファー 訳/加藤輝美
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