ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第81回

ハクマン第81回
やはり人間、焦燥した時には
素直に焦燥顔をした方が良い。
スカすとますます損をしてしまう。

先日、税理士のところに確定申告の結果をとりに行った。

確定申告が終わった後は、納税の喜びを噛み締めるべく、公園の水がぶ飲み、図書館で虚空見つめ三昧、〆に公衆便所でウンコ、という納税フルコースを毎年嗜んでいたのだが、今回はあまりにも税金が高すぎて「公衆便所でゲロ」という、メニューにない奴を頼むことを許された。私もやっと納税者として常連の仲間入りといったところだろうか。

などと Twitter に愚痴ったりすると「儲けてるからだろ」など、死体の蹴り方をよく心得えていらっしゃる「日本にもまだ戦える侍が残っている」と頼もしくなるようなリプが複数ついたりする。

確かに所得があるから所得税が発生するのだ、嘆きたいなら税金はもちろん年金まで免除されてから嘆けと思うかもしれない。
しかし、長男を亡くした松代に「6人もいるからだし、あと5人いるからいいだろ」とは言わないだろう。
腹やキンタマを痛めて産んだ子供が亡くなれば他に何人いようが悲しいように、金も膝関節を痛めて産んだ我が子同然である。
それを取られるとあらば、元の所得が何人兄弟だろうと「悲しい」という感情は本物であり、決して「税金高すぎてつれーわー」というミサワムーブではないのだ。
ちなみに、松代はおそ松さんの母の名前だ、今ググって初めて知った。

よって相手に「仕掛ける」つもりで「儲けているんだからそのぐらいの税金いいじゃないか」と言っているなら「ナイス挑発」として10点である。
今後は「払う税金がない人もいるのに贅沢な悩みじゃないですか」など、全く関係ない誰かと比較して諌めるなど、さらに高ポイントを目指してほしい。

逆に、ケンカをしたくないならそういうことは言わない方がいい。
私は非暴力全服従という助走で疲れて死ぬガンジーなので何を言われても大体黙って下を向くしかないが、人によっては蹴り返してくるので、死体を蹴るときは相手が本当に息の根が止まった死体かどうか脈を取ってから蹴ってほしい。
つまり私を蹴ってくる人間は「死体を見る目」があってますます頼もしい。日本はまだまだ戦える。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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