ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第81回

ハクマン第81回
やはり人間、焦燥した時には
素直に焦燥顔をした方が良い。
スカすとますます損をしてしまう。

そもそも税金が高くなったのは、所得というより経費が掛からなくなってしまったのが大きい。

元々私の作品は、ウィキペディア知識だけで描かれているので原価がすたみな太郎並に安いのだが、コロナ禍により、東京出張などもなくなり、ますます経費がなくなってしまいほとんどフルの状態で払うことになってしまったのだ。

しかし節税というのは方法がいろいろあるらしく、それができていればもっと税金は抑えられるらしい。
逆にいえば、それを知らなければ諾々と払うしかないのである。
税金というのは平等な義務のようでありながら、知識量と行動力で大きく差がついてしまう世界なのである。

税金のみならず、今の世の中、知っているか知らないかで損得が大きく変わる仕組みになっている。
漫画家も一応個人事業主なので、そういう知識を持たず、ただ漫画を描いているだけでは、体力と時間だけは莫大に消費しているのに、何故か手元に何も残らないという心身ともに健康でいるのが難しい状態になってしまうのだ。

逆にいえば、所得を増やすのは容易ではないが、知識一つで手元に残すものを増やせるかもしれない、ということである。
私はそこまでは気付けたが、行動力がなかったので、ほぼ完パケで納税することになってしまった。
よってこれを見ている納税者の皆様は私の分まで節税、もしくは公衆便所で「これはカレー沢の分!」と言いながらウンコをしてきてほしい。

唯一良かったのは、私があまりにも目の前で焦燥してしまったせいか、税理士が既に印紙まで貼って用意した「顧問料増額書類」を取り下げた点である。
今それを出したら公衆便所を待たずにここで吐く、というゲロ質をとっていたせいかもしれないが、私は紫色のリスみたいな顔をしていただけで何も言っていないので脅迫には当たらない。
やはり人間、焦燥した時には素直に焦燥顔をした方が良い。スカすとますます損をしてしまう。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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